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義妹が出来たその日から  作者: Nanomu
蒼井優:

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比べるのではなくて

夢を見ていた。

遠い昔のような懐かしさがあった。

五感で感じる情報は、ミンミンゼミの鳴き声と辺り一面に広がる濃緑の水田。ほのかに香る透き通った水の匂い。気持ちのいい風。

全てを感じきれているわけじゃない。

言葉では表せない細かなこともきっと感じているはずだ。

そういえば、自分は今何をするために、ここに立っているんだろうか。

理を知らないのに、物事を存在させることはできない。

きっと何か理由があるはずだ。


澄み切った空と眩しい日差しがありつつも涼しい高地、和歌山。かつて家のあったとか、そんな記憶はない。ただ体が赴くままに田んぼを出て、山林に囲まれる地を歩き出していった。

どこまで行っても田んぼ、林しかない風景の中に今の時代には珍しい...というより自分たちは、あんまり見ない木造があからさまである家がよく見られる。

青い瓦で縁側があって、物好きがたくさんいそうな、風情のある民家だ。

意味もなくただただ、ほっつき歩いているだけであるが、人は見当たらない。

頭の処理能力の問題なのか分からないが、静寂に包まれる地の中で、一人だけだということも、これまたどこか切なさを感じるものであった。

疲れを感じない世界の中で歩き続けると、信号のある町並みが見えてきた。

小学校があって、飲食店もある。

古民家を使用した店にはまた一つ趣があった。

なんとなく小学校に入れば、廊下には成績優秀者の名前が並べられている。もちろん知らない名前ばかり。

掴める情報としては風乃、須磨が不動の一位二位を取り続けていることぐらい。

教室には誰もいない。

きっとたくさんの人がここで学んで遊んで成長していったはず。

四年一組。

風乃奏の机に触れて談笑の響き渡る教室が目の前に広がる。これは夢であり現実ではない。

少しきしむ床を歩いてその教室を後にする、夢はそこで途切れる。





一目見て、小学校だと気づく。

古民家の溢れる街中で飲食店と区別がつく。

成績優秀者は名字のみ表示されている。


夢は実際に起こらないことも当然のように起こる。

転生したような自覚を覚えてしまったり、空を飛べるなどといった錯覚に陥ることもある。

しかし、記憶が覆ることはない。


部屋の本棚。上段二段目右端。

古い絵日記の中には、夢で見た景色と、全く同じものが描かれている。

でも、それは決して開かれることはない。


微かな記憶のように感じていた自分の夢は、これに描かれた絵を少し思い出したものだった。

蒼井雄大の書斎部屋。


同化するように塗られたようにも思える茶色の箱に、それが眠っていた。

先程感じたものは、本人の今の思いを汲み取ったもなどではなく少し過去を振り返っただけの一瞬の動作に過ぎないのであった。

彼が目を覚ました時、夢の情報はもう全く残っていなかった。







目を覚ましてことを理解するのに、数十秒かかった気がした。

そうだ、寝落ちしてしまった。


理系だからといってこんな時に、すぐ頭が働くわけない。

世の中理系なんだからとか言って済ませるやつに物申したい。じゃあ、日本人は、国語か完璧なんですかと。

背中には、カーディガンがかかっていた。

きっと父だろう。


冷房の効いた部屋でこの格好は、さすがに気を遣わせるか。というか起こして欲しかったが。

意味もなく髪を鏡の前で整えて、柄でもない香水を身にまとう。

鼻腔をつく甘ったるい香り。

嫌いではないが好きでもない。どちらかと言えば前者より。

少し洒落た帽子をつけて、一度自分のコーデを見やる。

ファッションに関してはドがつく素人だが、人前に出られないようなダサさではないと思うので、大丈夫だ。

スマホの通知には先に言っておくぞと父からのLINE。

アプリを立ち上げるのが少しかったるかったので、機能の一部である、すぐ返信できるところを使って『今から行く』とだけ書きすっかり静かになった家を後にした。


近所の神社で開催されているその祭りは例年、思った以上に人が来ることで知られている。

町内会主催で行われているが意外と力を入れており、たくさん呼びかけを行っているらしい。

元々この町は田舎ではないし、どちらかと言えばベッドタウンだ。


人口もそこそこ多い。

それでもたくさん人が来てくれたら嬉しいのは町民として分からなくもない。


神社に行く道を徐々に歩いていくと、少しずつ浴衣を着た子供たちやカップルが増えてきた。


何にしても、一人だけ場違いを感じるような状態がすごく苦手だ。行く当てのない恥ずかしさというか、本当はそんなはずないのに注目されているような、そんな感情に陥ってしまう。


そんなものから逃げるように神社へそそくさと向かった。


常に神社では盛り上がりの最高潮を更新し続けている。

射的や輪投げなどから聞こえる嬉しさや悔しさが混ざった声とたくさんの屋台からする威勢のいい呼び込み。


今を一生懸命に楽しんでいるのが分かる。

こういう人たちがいるからこそ町がより人気になっていくのだろう。小さな自分が気にしても仕方なのないことだろうけど。


父たちは店のない場所にいると位置情報を送ってきてくれたので、とりあえず店の裏側を通って向かうことにした。


伝えてくれた場所に近づくたび、声が聞こえなくなっていく。

夏の夜、本来なら少し涼しい場であった会場も熱気によって暑くなっていたが、本来の涼しさを取り返しつつあった。


着いた場所は屋台の途切れの先にある開けた場所だった。


人の気配も空気の流れも感じない、本当に沈黙の場所。

言われたのはここだが家族誰も見当たらないので、とりあえず 階段に腰を下ろした。


ここのところ、常に人と関わってばかりだった。

見渡す限り地面と壁である殺風景で変哲のないこの空間がなぜか安心した。


顔色を伺って場を濁さない。大切であるからこそ難しい。


激しい運動をするよりも精神的に考えなければならないこちらの方が自分にとっては苦痛だった。


支えてきた重いものを一度切り離すように、ため息をつく。

何かから解放されるわけでもないが自分を柔らかくすることはできる。固くなってしまった自分の頭を少しでも柔軟にさせるような糸口が欲しい。

下を向いてそんなくだらないことを考えていると目の前に黄緑色の光がたくさん現れた。

ホタルだ。

自由自在に飛び回るその姿がなぜかとても美しく感じる。

誰だって誰かと一緒がいい。人そんなことをみんな心のどこかで考えたことがある。あの子と一緒になれたら楽だろうなあとか。あの可愛いことを席となりがいいなあとか。


憧れでも、同担でも、勧誘でも。


数を作れば、それは独裁ではなくなる。

同時に、今まで尊重されていた少数の意見が弾圧される。


本で例えるとあれだが、一番最初に王道として選ばれたラブコメがあったとしよう。

その後に描かれた新しい作品たちはパクリなどと言われたり、似たような設定を使うだけで炎上してしまうかもしれない。

だから変化しなければならない。


常に変わり続けなければ時代に追いつくことができない。

カリスマ性やアイドル性、あざとさは輝くことだってある。

どんな時代でも。


しかし、どうしても似たようなものが思いついてしまうのは自分が今見ているものが、過去に勝利できていないからである。

そこで人間は比較してしまっている。

別のものとして見ているのではなく、王道の基盤となったもの見比べてしまっている。


だからと言って何も持っていないものが輝いていない。

そんなことはないんだ。頑張ってる人が一番偉いとか、適当な言い回しで物事を決めてしまっているようなものは嫌いだけど、あれもあってこれもあってみたいな。

人や作品はたくさんあるからこそ面白いことをちゃんと理解してほしい。


同じような光を輝かせて飛び回る蛍のように、比べるのではなくその作品のその人のいいところだけを見つけて少しずつ伸ばしていけばいいと思う。


きっとそれを見てくれている人がそれを選ぶ。


他者よりも目立つために必要なことはない。



意思があるかないか、多分それだけ。





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