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義妹が出来たその日から  作者: Nanomu
糸瀬千歳:新しく始まった日々に

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11/14

私の隔てる壁

母を励まし、昼食も食べ終わっていよいよ引越しが近づいてきた。不安か期待か色々な感情で浮ついている心の状態で二人、買い物に向かうことになった。

私が励まして、どうにか調子を取り戻してくれたらしい母は、先程とは打って変わって、雄大さん達との同居生活を楽しみにしているようだった。バスの二人用座席で、周りに聞こえるかどうかぐらいの小さな声で何かを口ずさんでいる。

それも窓の外を見ながら。

私なんかの力だけで本当に調子が戻ったかと聞かれても、恐らく頷くことはできない。

けれど、その気持ちを上塗りできるように頑張らないといけないなと、そんな母の姿を見て私は思った。


駅前のバス停で降車して、すぐ近くにある巨大複合施設へと向かう。

二人並んで歩くとわかるけどいつの間にか私は母の身長を越してしまっていた。

これだけで図に乗ることができなくなってしまったのは、蒼井さんや雄大さんの身長が私達二人よりも更に高かったから。

私も母も160センチ後半で、女性にしては低くないと思うんだけど、やっぱり男性の成長にはかなわない。

バスを降りてから、十分ほど母の隣を歩いているけれど、相変わらず母は何かを歌を口ずさんでいるだけで、二人の間に会話は生まれなかった。

親子共々、口下手を実感しているわけでもないけど、なんというか、会話ってどう返すのが正解なんだろうとか考えてしまうから広がらないし、続かない。

だからそれを危惧して話し始めないみたいなことを考えているはず、お互いに。

本に出てくる親子って、もっとなんかこう言葉では表せないような深い何かを抱えているだとか、そんなものが多いかもしれないけど、多分そっちの方が生きづらいから、私はこのままでいいかな。


正面の入り口から入ると、ショッピングモール内は夏のコーデや食べ物やらが、大々的に紹介されていた。

よくあるショッピングモールの音楽が広い範囲に流れている。

でもやっぱり、何事も大きければいいってもんじゃない。すべてにおいて。

ここに住めますかと言われても、私はきっと首を振る。それは体のサイズだって同じ。大きすぎても不便で仕方ない。私は普通だから関係ないけどね。


久しぶりのショッピングモールでそんなことを考えていたらいつの間にか、母がスーパーの方に向かっていたので、慌てて小走りでついていく。


「今日は何買うの?」


書いてきたメモと周囲を交互に見る母に問いかける。


「流石に手ぶらじゃ悪いかと思って...少しね」


そういった母のメモには「蒼井家の好きそうな物」と書かれているのが見えた。それなら書く必要なくない?


何度も何度も吟味して。

なのに、試食のやつはすぐ買って。


悪く言えば、推しに悪くて判断ができない。

良く言えば、優しくて思いやりがある。


買い物かごの物の多さと共に過ぎていく時間は早く過ぎていった。




時は過ぎて太陽は傾き、私は今、蒼井家の扉の前に立っている。見慣れないけど、これから当たり前になる景色。

ピンポンを押すと、蒼井さんが出てきた。

黒のスウェットパンツと白T。何か家事でもしていたのだろうな。

すぐにあちこちを見て回ることは良くないけれど、軽く廊下を見渡しながら、リビングへと進んでいく。塵一つない、真っ白な床が私という存在を証明している。

リビングに入ると、すぐ隣にキッチンがあって、奥にはソファーとテーブル。そしてテレビ。

食卓とは別で用意されていたそれらの家具からは、爽やかな匂いがした。テレビの横には花があって状態もすごく綺麗だったから、水もしっかり変えている。

蒼井家はとてもオシャレなのかもしれない。


雄大さんと軽く挨拶をして好みを知った。

会話にしては数秒だったけど、これからにとって、とても大切なことだ。

何が好きで、何が嫌いか。

たったそれだけのことなのに、意見が別れたりするから、情報は入手していた方が得。

整理しておくと、かってでてくれた雄大さんのご厚意に感謝して、部屋に案内してもらうことにした。




部屋は、ほとんど何もなくというか、そういう風にしていてくれたかなと思うんだけど、綺麗にしてあった。フローリングの白い床は、裸足であれば音がなりそうだ。この家に来てから、私の見たことのないものばかり。なくてもいいものだけど、あったら便利なものがたくさん。


なぜか私は素でいってしまった。


「へー...お金持ちなんだ」


私はこれを言った時、自分でも驚いた。

だってそれはどうしようもない事実で、そうであったところで、私には縁のないものだったから。

他人事で関係のない話だと思っていた存在も近くにあれば、人は変わってしまう。

私はこの一瞬で彼を憎たらしく思ってしまったんだなと気づいた。



思えば、私は昔から孤立していた。

髪の色こそ金色だったけれど、明るい子では全くなくて、読書ばっかりしていた。

少しずつ形になっていく私の過去の姿。


朝の登校。

決められた時間に起きて、朝ごはんを食べて支度をして、一人で行く。静かな朝の街は気持ちが良かった。道端を見れば、花が咲き、上を見れば雀が鳴いている。

詩人でも作詞家でもないけれど、私はそんな朝がきっと好きだった。


昼休み。クラスの男子は外に遊びに行って、残った女子は集まって恋バナをしている。

もちろん私は読書をしていた。喧騒の中で、一人きり。どこかの人が思うあてのない言論を読んで面白さを探していた。そんな昼休みだって、私はきっと楽しんでいた。


青春とは何か?

答えるのには、回答例が無限にある問い。

学生は時間を費やして、日々をより良くしようと励み、毎日を全力で過ごしていく。

きっとそれを青春という。


私を作る何かの要素や取り巻く存在は、多分それの一部になり得るものなんだろうけど、私は接着剤の使い方がわからなかった。


「誰かと全力で恋をしたい。誰かと今を楽しみたい。誰かと人生を歩みたい。」


くだらなくて時間の無駄だと思っていた、そんな言葉たちが、私の心の底でずっと叫んでいるような気がした。



私の隣に立っている「兄さん」をきっとそう呼ぶことができないのは、私のこの未知の感情が、この新しく生まれた家庭に響いてしまうかもしれないから。

私は理由をつけて、壁を隔てる。



マンションの一階付近にトラックが止まっている。母だ。

ぼーっとしていた蒼井さんに声をかけて、私は玄関へと向かった。





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