最終話 BLUE TONE
眩しいライトの中、最初の一音が鳴った瞬間。
10年の時間が、確かにほどけた。
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■一曲目 ―― 「フレンズ」
イントロが流れた途端、客席がざわめく。
「え、レベッカだ…!」
「懐かしい!」
麻耶の声が、まっすぐに突き抜けた。
♪ 口づけをかわした日は…
年齢を重ねた分だけ、声には深みがあった。
若さの勢いではなく、人生を通過した人間だけが持つ色。
響のギターは無駄がなく、慎司のベースは確実に土台を作り、
大地のドラムが全体を前へ前へと押し出す。
観客の中に、かつての同級生がいた。
文化祭を見てくれた人が、いた。
「ホットハンズだ…」
誰かがそう呟いた。
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■二曲目 ―― オリジナル「メモリーズ」
照明が少し落ちる。
「次は…私たちの曲です」
麻耶がそう言った瞬間、4人は顔を見合わせた。
静かなギターのアルペジオ。
慎司のベースが、心拍のように重なる。
♪ あの日の色は
今も胸の奥で鳴ってる
歌詞は、4人だけの物語だった。
失った時間。
遠回りした人生。
それでも、ここに戻ってきた奇跡。
麻耶の目に、涙が浮かぶ。
でも声は揺れなかった。
歌う理由が、はっきりしていたから。
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■ドラムソロ ―― 大地の笑顔
間奏で、大地が軽くスティックを回す。
楽しそうに、全身で叩く。
観客が自然と手拍子を始め、
会場はひとつのリズムになる。
「やっぱ音楽って、こうだよな」
大地は心の中でそう呟いた。
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■最後のサビ ―― 重なる声
響が一歩前に出て、ギターを高らかに鳴らす。
慎司のベースが包み込み、
麻耶の声が、空へと放たれる。
♪ さよならじゃない
またここで会える
その一節で、
麻耶は客席の奥にいる家族の姿を見つけた。
子ども達が、手を振っている。
「……ありがとう」
その言葉は、マイクを通さず、胸の中で呟いた。
最後の音が、静かに消える。
一拍の沈黙。
そして――
拍手。
割れんばかりの拍手と歓声が、4人を包んだ。
麻耶が深く頭を下げる。
響が拳を握りしめる。
慎司が安堵の息を吐く。
大地が、最高の笑顔を見せる。
ステージを降りると、4人は自然と円になった。
「……終わったな」
「終わったね」
「でも、なんか」
「始まった感じもしない?」
麻耶が笑った。
「うん。BLUE TONEは、まだ鳴ってる」
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■エピローグ
数日後。
喫茶店「カモメ堂」の奥。
コーヒーを飲みながら、4人は穏やかに話していた。
「次、いつスタジオ入る?」
「月一くらいが現実的かな」
「新曲、もう一曲作ってみる?」
「いいね、それ」
無理はしない。
でも、終わらせない。
音楽は、人生の全部じゃなくていい。
人生に、そっと寄り添うものでいい。
窓から差し込む午後の光の中、
4人の笑い声が重なった。
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**もう一度、音は鳴った。
それは青春の続きであり、
これからの人生の“ブルーな色合い”だった。**




