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BLUE TONE  作者:


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4/6

それぞれの覚悟

フェスまで、残り一ヶ月。


スタジオのカレンダーに赤ペンで書かれた日付が、少しずつ近づいてくる。

4人の練習は順調だったが、心の奥ではそれぞれ違う“迷い”が芽生えていた。



■麻耶 ―― 母であること、歌うこと


夕食後、子ども達を寝かしつけた寝室。

麻耶は小さな寝息を確かめてから、リビングに戻った。


テーブルの上には、フェス当日のタイムテーブルのコピー。


「この時間…ちょうど運動会の準備と重なるかも…」


胸が、きゅっと縮む。


歌いたい。

でも、母親としての役割から逃げたくはない。


そこへ、夫が静かに声をかけた。


「麻耶、最近楽しそうだよね」


「え…?」


「歌のこと。無理してる顔じゃない」


麻耶は少し迷ってから、正直に言った。


「もし…フェスの日、子ども達を置いて行ってもいいかな」


夫は少し驚いた顔をしたあと、笑った。


「いいに決まってるだろ。

だって俺、麻耶が歌ってる姿、好きなんだから」


その言葉に、麻耶の目から涙が溢れた。



■響 ―― 社長という現実


会議室。

来期の重要案件を前に、響は厳しい判断を迫られていた。


「その日は、どうしても社長に同席していただきたいんですが」


日程表を見ると、フェスの前日。


―― 休めない。


頭をよぎるのは「バンド」と「会社」。

どちらも、自分が背負っている。


夜、誰もいないオフィスでギターケースを開く。


「俺、何やってんだろうな…」


ふと、昔の文化祭の写真が目に入った。

汗だくで、無邪気に笑っている自分。


「……逃げたくない」


翌朝、響は決断する。


「前日の商談、俺抜きで進めてくれ。

責任は俺が取る」


部下が驚く中、彼の声は揺れていなかった。



■慎司 ―― 理論家の不安


研究室の机に向かいながら、慎司はふと考える。


「人前で演奏するの、何年ぶりだ?」


学会発表とは違う。

評価ではなく、感情がさらされる場所。


指が震え、弦をミュートする。


「失敗したら…皆の足を引っ張るかもしれない」


そんな彼に、学生が言った。


「先生、ベース弾いてる時、めっちゃ楽しそうですよ」


その一言で、肩の力が抜けた。


「…失敗してもいいか」


音楽は、完璧じゃなくていい。



■大地 ―― 守る場所


喫茶店「カモメ堂」。

フェス当日、店は定休日にする予定だった。


「もったいないねぇ」と常連に言われ、大地は笑う。


「いいんすよ。

この店は、オレの帰る場所だから」


夜、1人でドラムセットを叩く。


「叩ける場所がある。

帰ってくる場所がある」


それだけで十分だった。



■スタジオ ―


4人が集まった夜。

誰からともなく、ぽつりぽつりと話し始める。


麻耶は家族のこと。

響は会社のこと。

慎司は不安を。

大地は店のことを。


沈黙のあと、麻耶が言った。


「私ね…フェス、逃げたくなかった」


響が頷く。


「俺もだ。

中途半端にはやりたくない」


慎司が微笑み、大地が力強く言う。


「じゃあさ、全力でやろうぜ。

10年分、まとめて」


その言葉に、4人の視線が重なる。


アンプのスイッチが入り、カウントが刻まれる。


“メモリーズ”は、少しだけ大きな音になった。



フェスまで、あと一ヶ月。


それぞれの覚悟が、ひとつの音に重なり始めていた。

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