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BLUE TONE  作者:


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3/6

第3話 メロディの行き先

フェス出演が決まり一週間。

スタジオに集まるペースは増えたが、4人の日常は変わらず忙しく…それでも、心のどこかにいつも “音” が流れていた。



■麻耶 ―― 家庭との両立


夕飯の支度を終えたキッチン。

麻耶は鍋の火を止め、そっと喉に手を当てた。


「最近、声の出し方を忘れてたなぁ…」


ハスキー気味の独特の声は、年齢を重ねても色褪せていない。

だけど、腹式呼吸は鈍っている。

歌いながら授乳していたあの頃もあったけど、今は身体の使い方が違う。


スマホが震え、響からのメッセージ。


〈明日、オリジナルのアイデア持ってく。聴いてくれ〉


麻耶は思わず笑った。

高校の頃から、響は新曲が出来ると真っ先に彼女に聴かせたがった。


「…あの頃と同じだね、響」


けれど、同時に胸が少しざわつく。

10年前、彼のギターに惹かれていた自分を思い出すから。



■響 ―― リーダーの焦り


自宅の書斎。

響はギターを膝に乗せ、コード進行を繰り返し弾いていた。


仕事のストレスで固まった肩が痛む。

背負う責任も、昔の軽やかさとは違う。


「…これでいいのか?」


メロディの断片。

でも歌い出しだけがどうしても決まらない。


ノートを投げるように閉じた時、ドアをノックする音。


「パパ、まだ仕事?」

小学一年の娘が顔を覗かせた。


「ああ、まぁ…仕事みたいな、趣味みたいな」


「パパ、ギター弾いてる時の顔、楽しそうだよ」


その言葉に、響はふっと苦笑した。

子どもに気づかれちゃうんだ。

“バンドが好きだった頃の自分” が、確かにまだ生きている。



■慎司 ―― 理論と感情の交差点


大学の帰り。

慎司は楽器店に寄り、ベース弦のコーナーに立っていた。


「10年ぶりにこんなに弦消費してるな…」


指先が少し痛い。

演奏の感覚が戻ってきた証拠でもあった。


店内で流れていたのは、80年代のヒットソング。

シンセの音、派手なドラム、甘酸っぱい歌詞。


慎司はイヤホンもせずじっと聴き込む。

研究してきたどんな理論よりも、

“音楽って本気で心を揺らすんだ”

そう思える瞬間だった。


「…次のリハ、もっと良いラインを弾こう」


静かに決意が生まれた。



■大地 ―― 喫茶店に集う記憶


夜の閉店後。

カモメ堂の照明を落とすと、店内は柔らかな影を落とした。


厨房の奥から古いスティックを取り出し、空気を切るように軽く振る。


「…あんときと同じだな、ワクワクすんの」


そこへ、麻耶が子どもを寝かしつけた帰りにふらっと立ち寄った。


「お疲れさま、大地」

「おう、麻耶!コーヒー飲む?」


2人で並んで座るカウンターは、10年前の“部室の代わり”みたいだった。


「ねぇ大地…私、歌、まだ通用するかな?」

麻耶の声は少し震えていた。


大地はコーヒーカップを置いて、にかっと笑う。


「通用するどころかさ、麻耶の声がないとオレら始まらないだろ。

あの頃も今も、ホットハンズのセンターはお前だよ」


麻耶の目が少し潤み、そっと微笑む。


「ありがとう。…ほんとに、ありがとう」




翌週の夜。

4人はスタジオに集まった。


「じゃあ…聴いてほしい」

響が弾き始めたのは、切なくて柔らかいギターのフレーズ。


慎司がすぐにベースラインを合わせ、大地が軽くリズムを刻む。


麻耶は目を閉じ、ゆっくりと息を吸った。


―― 10年前の自分たちへ

―― そして今の自分たちへ


歌い出しの言葉が、自然と口をついて出た。


「あの日の色は、今も胸の奥で鳴ってる…」


その一節で、3人の手が止まった。


響が驚いたように麻耶を見る。


「今の…麻耶が考えたの?」

「うん。…浮かんできたの」


静まり返ったスタジオに、確かな確信が生まれる。


これが、ホットハンズの“オリジナル”になる。


大地がスティックを回しながら言った。


「タイトル…『メモリーズ』はどう?」


慎司が頷き、響が微笑んだ。


「いいじゃん。完璧だよ」


こうして彼らの10年越しの新曲が産声を上げた。

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