表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLUE TONE  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

第2話 動き出した日常

フェス出演の話が出て三日。

4人はグループラインを作り、久しぶりに頻繁に連絡を取り合うようになった。


「リハ、いつ入る?」

「仕事終わりだと twenty のスタジオ空いてるよ」

「子ども寝かせてから来れる?」

「大地の店で夕飯食べてから行くのもアリ」


10年前と同じ軽やかさ。

だけど、それぞれの生活は確実に重く、複雑で、責任を背負っていた。



■麻耶の朝


家中に子ども達の足音が響く。


「ママー!靴下どこー!」

「このプリント学校に出すやつ!」

「ごめん、今日お弁当いるんだっけ!?」


洗濯物、食器、幼稚園バスの時間。

怒涛の朝をこなしながら、麻耶はふとキッチンの冷蔵庫に貼ったメモを見る。


〈ホットハンズ リハ 金曜20:00〉


胸が、小さく高鳴った。

“音楽”が家事と子育てに少しだけ入り込む。それだけで世界が明るくなる。


「…久しぶりに、声出しとこうかな」


子ども達を送り出したあと、静かな家で小さくハミングする。

10年前と同じ声が確かに自分の中に残っていた。



■響の昼


社長室のデスクに積み上がった資料。

電話、メール、部下からの相談。

高校時代はギターさえあれば十分だったのに、今は何もかもが自分の判断にかかっていた。


「ひびきさん、来週の商談の件なんですけど…」

「わかった、午後に資料見せて」


忙しさに追われながらも、机の引き出しには一本のピックが入っている。

同窓会の翌日に、なんとなく買ってしまったものだ。


――フェス、本当に出るんだな。


考えるだけで胸がざわつく。


「久々だ…ギター、弾きたい」


仕事帰り、スタジオへ自分だけで寄ってみた。

10分だけのはずが、いつの間にか1時間が過ぎていた。



■慎司の研究室


静かな大学の廊下。

授業とゼミの合間に、慎司はベースケースを覗き込んだ。


「弦、張り替えないと…」


理詰めで生きてきた彼が、ベースに触れる時だけは“理屈より感覚”。

学生時代から変わらない唯一の領域だった。


研究室の本棚に、こっそり置いた譜面。

そこには響が送ってきた、新曲のギターのコード進行が書かれている。


「…いいじゃないか。響にしては珍しくエモい」


指が自然と空中で動く。

フェスまでの3ヶ月を計算して逆算したシミュレーションも、すでに頭の中にあった。


慎司は静かに笑った。


「数学よりずっと難しいな。…だからこそ楽しいんだ」



■大地の喫茶店「カモメ堂」


お昼どき、店は常連客で賑わっていた。


「大地くん、聞いたよ〜!バンドまたやるんだって?」

「へへっ、まぁ…久しぶりにね!」


カウンターから響く皿の音。

店中に広がるコーヒーの香り。

そして厨房奥には、古くなったスティックが飾られている。


大地にとってバンドは“青春”であり、“家族”でもある記憶だった。


「フェスか〜。緊張より楽しみの方がデカいな」


ふと、入口のベルが鳴った。


「よっ、大地。今日のミートパスタ頼む」

響が顔を出した。


「お、リーダー!珍しいじゃん」


「ちょっと相談があって…」


2人でコーヒーを飲みながら話す。

10年前は毎日のようにこうしていた。

自然と、あの頃の距離感に戻れるのが不思議だった。



■4人再び集まる夜


金曜20時。

スタジオの扉を開けると、4人が揃っていた。


「遅れてごめん、子ども寝なくてさ」

「大丈夫大丈夫!今日はまず音合わせからだな!」


アンプが温まり、スティックが手に馴染む。

慎司がベースの弦を弾き、響がギターを鳴らす。


麻耶がマイクを握った瞬間――


そこには、10年前の“ホットハンズ”がいた。



「なぁ、フェス……本気でいくか」


響の一言。

慎司と大地が頷き、麻耶がゆっくりと笑った。


「うん。私も…本気で歌いたい」

          

           青春の音色

その夜から、彼らの「BLUE TONE」が本当の意味で動き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ