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いつどこでどちらをむいても

作者: ばーでーん


エミー・ネーターに捧ぐ



今も昔も物理法則が同じだから

時間が過ぎてもエネルギーは保存する


どこにいても物理法則は同じだから

どこにいっても運動量は保存する


どこを向いても物理法則は同じだから

どこで回転しても角運動量は保存する


どこでも電子の電荷が同じだから

どの電子にもU(1)対称性が保存する



粒子を反粒子に置き換えても

鏡に映しても物理法則が変わらないなら

それはCP対称性が保存されているということ


けれど宇宙は少しだけ

その対称性を破っている


物質が反物質より多いのは

そのわずかな破れの証かもしれない


ネーターの定理が語る保存の裏で

宇宙は静かに非対称を育んでいる



お読みいただきありがとうございます。

注1. エネルギー保存則が物理法則の普遍性によるという見方は面白いです。

注2. 運動量とはある物体が持ってる質量に速さをかけたものです。日常では摩擦に隠れて見えにくいかも。摩擦の少ない氷の上なら、カーリングを見ると理解できます。カーリングのストーンの質量は等しいので、投じたストーンが別のストーンに当たってピタリと止まれば、別のストーンは投じたストーンと同じ速さで滑り出します。

注3. 角運動量とは回転運動をしている物体の重さ×速さ×回転軸からの距離です。物体の回転軸からの距離が遠ざかると速さは遅くなります。近いと速くなります。惑星はこうして太陽の周りを楕円軌道を描きます。角運動量保存則はケプラーの第二法則のことです。スケート選手がスピンのとき、腕を狭めると速く回転するのも角運動量の保存によります。少し重い本を両手に持って回転椅子で回転して、両手を伸び縮みしても体感できます。回転しすぎると危ないので誰かに補助してもらいましょう。椅子に座った回転もスケート選手のスピンも惑星の楕円軌道も、物理法則が向きによらないため、という理屈で導かれるのは面白いです。

注4. U(1)対称性とは、量子力学の波動関数の位相を変えても物理法則が変わらないという性質のことです。位相とは波の山と谷のどのタイミングにあるかを示す用語です。量子力学の波動は位相(厳密には複素数の回転の位相)を変換しても、観測される物理量は変わりません。この「回しても変わらない」性質が、数学的にはU(1)群という円周上の回転対称性に対応します。電子の電荷がいつも一定なのは、仮定ではなく、背後にこのような対称性が潜んでいるためです。

注5. CP対称性とは、粒子を反粒子に置き換え(C:荷電共役変換)、さらに空間を鏡像反転(P:パリティ変換)しても、物理法則が変わらないという性質のことです 。この対称性が成り立つなら、粒子と反粒子は鏡の中でも同じように振る舞うはずです。しかし、弱い相互作用ではこのCP対称性がわずかに破れていることが実験で確認されています。1964年、中性K中間子の崩壊においてCP対称性の破れが発見され、これが物質と反物質の非対称性の手がかりと考えられています 。この破れがなければ、宇宙は物質と反物質が同量で存在し、互いに打ち消し合ってしまっていたかもしれません。つまり、私たちが存在するためには、CP対称性のわずかな破れが必要だったとも言えるのです。

注6. エミー・ネーターとは誰か

エミー・ネーター(Emmy Noether)は、20世紀初頭に活躍したドイツの数学者です。抽象代数学の発展に大きく貢献し、物理学においては対称性と保存則の関係を示す「ネーターの定理」を導きました。この定理は、現代物理学の根幹を支える原理として、量子力学や場の理論、ゲージ理論などに深く息づいています。

ネーターは、女性であるがゆえに大学で教える資格すら与えられず、助手として講義を行うなど数々の困難に直面しました。それでも彼女の理論は、アインシュタインやヒルベルトらの高い評価を受け、後世の科学に計り知れない影響を与えました。

同時代に活躍したマリー・キュリーが放射線の発見とノーベル賞受賞によって広く知られるように、ネーターもまた、理論の深さと普遍性において、キュリーにひけをとらない偉大な科学者です。

キュリーが物質の奥に潜む力を見つけたなら、ネーターは宇宙の法則に潜む秩序の源を見出したとも言えるでしょう。

彼女たちはともに、科学の世界に灯火をともした女性たちです。

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― 新着の感想 ―
様々な自然現象の中にある普遍的な真理を物理法則として見い出していくことは、時や場所にかかわらず存在するものを見つけていくことでもあって。そうした中で、宇宙は本当に神秘的なものかも知れないですね。ラスト…
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