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レベッカ2

「ここで何をしているのですか?マトモな人間ならこんな所には寄りつかないはずですが」


凛とした声色に目を向けると、逆光で表情は見えないものの、美しい金髪が日差しを反射しキラキラと輝いていた。


皺一つないメイド服を纏い、きっちりとした佇まい。

対する自分は、ぼろぼろの布切れを纏い、両手首足首には枷がついたまま。


どこかのお屋敷に迷い込んでしまったのだろうか、今の自分の風貌は浮浪者にしか見えない。


「す、すみません。私、迷ってしまったみたいで……」


彼女はふぅ、とため息をつきながらこちらに近づいてきた。その凛とした声に違わずキリリとした美しく、完璧な左右対称な造形にひやりとする。


「では、貴女はここがどこだかご存知ないと?」


「は…、はい。私は決して空き巣に入ろうなどとは思っておりません。本当に道に迷ってしまいました」


空き巣ですか…。そう言うと彼女はくすくすと笑い出した。


「そうですね、この禁忌の森に空き巣に入ろうなどと思う輩は居ないでしょう」


「禁忌の森…!?」


禁忌の森と言えば、魔王城のお膝元。寄り付けば人間は気が狂うと言われている。


私は必死に逃げる余り、こんな所まで来てしまったのか。



「呪いのせいで随分弱ってはいますが、貴女はかなりの魔力をお持ちのようですね。魔力がある方は耐性がついているので影響は少ないのです。最も、ゼロではありませんが」


考えている事が顔に出ていたのだろう、彼女はにべもなく答えた。


「死に場所を求めてくる者はいますがね。ま、"訳アリ"しか寄りつきませんよ」


「……っ!」


彼女が敵か味方なんて分からない。このままここに居て、引き渡されるかもしれない。


現にマトモな人間は来ないと言う。


急いでエレナはその場を離れようとした。


「そんな身体でどこへ帰るおつもりですか?」


「帰る…」


そうだ。私には帰る場所も当てもない。


助けてくれる人も、心配してくる家族も、愛する人も居ないのだ。



「大方、迫害され魔女狩りから逃げ出したのでしょう。人間とは実にわかりやすい生き物ですね。ご安心ください。王に突き出すなどしませんから」


「…………話が早くて助かります」



その後"レベッカ"に枷を外してもらいながら互いに自己紹介をした。


彼女は魔王付きのアンドロイドである事。


魔王は他の魔族を自由にする代わりに城に閉じ込められている事。


寂しがりやでおしゃべりな魔王の話し相手となっておりウンザリしている事。


人手が欲しいと思っていた事。



エレナも魔力が多く、迫害されており、ついに魔女狩りで処刑目前だった事を話した。


人とは違う、嘘偽りのない彼女との会話は楽しかった。


王都では皆腹の中を探り合い、嘘と虚像に塗れ、心休まる日はなかったからだ。


魔王は恐ろしい存在である。そう教わったエレナの常識はレベッカの言葉でどんどん覆されていった。


「ふふっ…魔王様がそんなに面白い方だったなんて。一度お話ししてみたいな」


「その言葉、録音させていただきましたが構いませんね?」




***




「貴女にかかっているものは少々厄介な呪いです。我が主に解いていただきましょう」


「そんな簡単に頼んでいいんですか!??」


「いやはや、むしろ飛んで火に入る何とやらですね。良い話し相手が見つかって良かったと思っています。魔王は人間を愛でたいのにそれができない余り最近は鬱陶し…おっと失礼」


レベッカはオホンと咳払いをした。


「最も、貴女が良ければ…ですが」


元より行く当てなんてない。


貴様の力を使ってやるんだからありがたいと思えと言われた事もある。


少なくともレベッカは信頼できると直感した。そして、彼女が慕う魔王も。


是非お願いしたいと言いかけたその時だった。



「……貴女は、変身魔法はお得意ですか?」


レベッカに突き飛ばされると同時に彼女の右腕が破損した。


「えっ……」


「近年の人間の技術力の向上には舌を巻きますね」


見ると甲冑に覆われた男が数人、こちらへ向けて魔道具を発射したようだった。


あの甲冑は防護服のようなもので、魔素の影響も受けない作りになっているようだ。


「まさか…ここまで私を追って…?」


「……どの道ここに乗り込むつもりだったのでしょう。貴女を探すためだけにあの大掛かりな装備を準備するはずありませんからね」


片腕のアンドロイドと満身創痍の魔女。じわじわと追い詰められ結果は見えていた。


最後に、希望を持てただけでもマシだったのかもしれない。


彼らに投降するとレベッカに言おうと口を開くと、冷たい指で唇を押さえつけられた。


「貴女に引き継ぎもせずこの仕事を任せるのは非常に心苦しいのですが、この城には、寂しがりやで、情けなくて、優しい魔王様が住んでいます。どうか……彼を。お願いします」


そう言うや否や、目の前が青白い閃光で埋め尽くされた。


それが"レベッカ"の最期の言葉だった。

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