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レベッカ1

遠い昔、人々は魔王に勝利した。


しかし魔王の力はあまりにも強大で、完全に滅ぼすことはできず、閉じ込めて封印するしかなかった。禁忌の森にある魔王城に、魔王はたった一人で閉じ込められている。


これはこの国に伝わる物語だ。恐ろしく強大な力を持つ魔王。


だが、その実情はーー。


「あ!レベッカ。またピーマンいれて!!僕が苦手なの、知ってるくせに!」


「好き嫌いしていると大きくなれませんよ」


2mを優に超える、角を含めたらそれ以上にもなる巨体を持つ魔王に、私はまるで子供を叱りつけるような言葉を放つ。


「僕、もう500年以上生きてるのに。レベッカはいつも子供扱いするんだから」


「はいはい。片付かないから早く食べちゃってくださいね」


私、『レベッカ』はメイド型アンドロイドだ。炊事、洗濯、戦闘、魔法。何でもござれな万能型で、魔王様が心血を注いでこさえた唯一無二のアンドロイド。


そんな超有能な能力を持ちながらも、最近は専ら魔王様の話し相手に収まっている。


理由は、この魔王城にある。


魔王様が魔王城に封印されてから150年余り。人間どころか他の魔族すら寄せ付けることはできず、唯一、人でも魔族でもないアンドロイドのレベッカだけが、何の影響もなく入ることができたのだ。


手早く食器を片付ける私へ、魔王は何か言いたげな目を向けた。


「なあ、レベッカ……」


魔王が私の肩にポンと手を置く。


「無理して下界に行くことなんてないんだ。食料なら僕の力でいくらでも出せるんだから」


「そんなこと言って、ピーマンは出さないおつもりなんでしょう?」


「あ、おいっ!」


そう言ってレベッカはさっさと食卓を片付けると、ホールから出て行った。



***



「……っ!はぁ、はぁ、はぁ……うっ、く……」


バタンと自室の扉を閉じると、レベッカの姿がぐにゃりと変化した。


レベッカは金髪に緩いカール、青の瞳が特徴的な細身の女型アンドロイドだ。


しかし今、鏡に映っているのは、冷や汗を流した長い黒髪に赤い瞳を持った覇気のない女だった。



私は『レベッカ』ではない。


とある事情からレベッカの身代わりをしているただの人間だ。


はぁはぁと息を整え、がくりと力なくへたり込む。


「流石は魔王様……たった肩に触れただけでここまでとは……」


メイド服をずらすと、青白い肩に赤黒く焼け爛れたような跡ができていた。


普通の人間ならばこれだけでは済まないだろう。


何故私はこの程度で済んでいるのか。それは私が強大な力を持つ魔女だからだ。


赤い瞳は魔力が高い者の証。魔王と同じ色をしている。


ただ魔力が高いだけで私は魔女と呼ばれていた。


「街で魔症を治す薬を探さないとな……」


魔族でもないただの人間にとって、魔王と暮らす事は辛く苦しい。


だが、市井にはもっと苦しみが待っている。


私はよろよろと身体をベッドへ投げ込むとそのまま気を失ったかのように深い眠りについた。




***




『魔王様、こんなに人間の事を愛しているのに貴方様は悔しくないのですか?』


周りからは魔族を一方的に恐れ、攻撃的になる人間に対して不満の声が上がっていた。


『構わない。彼らは弱く儚いからこそ我が魔力に怯えているだけなのだ。それに……』


魔王は辺りを見回した。


そこには心酔した魔族の眼差しが魔王へ向けて注がれていた。


『せっかく仲良くなったところで人間は、どうあがいても寿命には勝てない。理解してくれた者も何れ死に行く。そんなの寂しいだろう?』


ーーー。


これは、レベッカから引き継いだ彼女の記憶だ。


レベッカになりきる為には、魔王の人となりを知らなければならない。


知れば知るほど魔王は、人間を襲うような存在ではないと思い知らされた。


部下思いで、人間が好きで、寂しがりやで、争い事は好まない。


食べ物の好き嫌いは激しいけれど、平等に、礼節を重んじる男。


この男は私が今まで出会った中で、最も優しい男であった。




私は魔王城に来る前はエレナと呼ばれていた。そして、強大な力を持つ魔女であった。


その見た目や力のせいで魔族の生まれ変わりだと迫害され生きてきた。


それでも生きる為、王命のために力を使い、必死に自身を殺して生きてきたつもりだった。


だが、ある日の事ーー。


『ねえ聞いた?魔女狩りですって』


『王もついにあの化け物を始末してくださるのか!』


『あの目を見た事があるかい?あぁ!何と恐ろしい』


その日、自分が見ず知らずの他人にすらこんなに疎まれており、皆が自身の死を願っているなんて思っていなかった。


鎖に繋がれ、魔法が使えないように呪いをかけられ、暗く湿った牢へ繋がれ斬首の時を待つだけだった。


カアカアと黒い鴉が喧しく叫びながら吊るされた生首の目玉を啄む。


その時、無いはずの目玉がギョロリとこちらを見て、いる…気がした。


"私はひっそりと森で暮らしていただけなのに打首になった。私にはまだ幼い子供がいた。無実だ、私には魔力すらない。"


亡者達の声が次々に流れ込んで来る。


『あぁ……。怖い。嫌だ。あんな風にはなりたくない。私が何をしたというの?』




ーーー次はお前だ。


恐怖、絶望、悲しみ、怒り、恨み。


ドロドロとした感情が溢れて止まらなくなった。




気付けばエレナは裸足で走っていた。


何故こうなったのか思い出せない。


何故自分がいた牢が壊れていたのだろう。


分からない、でも。


とにかく、誰もいない方へ。


エレナは魔王城の麓まで逃げ込むが、呪いのせいで、どんどんと命が蝕まれていくのを感じた。



そこでエレナはレベッカと出会った。

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