表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

14.【梓蘭世!】



雅臣「……めんどくせぇ」



肩で息をしながら一緒に声が出てしまった。


まだ部活見学の初日だと言うのに、運動部でもない合唱部なんかがあんなにドンパチやりあってるのを見て気疲れした。


俺は元々1人が好きだ。


だからといって東京で友達が全くいなかった訳ではないぞ。


柊みたいにうるさくなくて、蓮池のようにキツくない、家の事情で帰宅部の俺を気遣ってくれる穏やかな面々が周りに多かった。


好きな時に読書をしたり、音楽を聞きゆっくり静かな空間で過ごしたいのに部活が強制とか本当に勘弁して欲しい。


学校での人付き合いなんて気の合う奴とだけ狭く深くでいいだろ。


色々揉め事に巻き込まれるのだけはもううんざりだ。


一旦今日は帰って明日から真剣にできるだけ楽そうなサークルを見つけよう。


そう思い廊下を歩いていると、



「ら、蘭世!……本当に辞めるの?」


「何回もそう言ってんじゃん。大体梅ちゃんだって俺がいない方がいいんだろ」


「そ、そんな事ないって……」


「あるだろ。もうずっと俺の事避けてるし」



先程思いっきり俺にぶつかり悪態をついた銀髪と、それを追いかけて行った優しげな男が見えた。



「梅ちゃんもう俺が嫌いなんだろ」


「蘭世の事嫌いな人なんていないよ」


「…そうじゃなくって、」




____いや、何だこれは。


満更でもない顔だな。


そうじゃなくって、ってなんだよ。


先程の合唱部の揉め事が大層有意義だった気がしてくる。


前の学校でこういうの見たことがあるぞ。


本人達は至って真剣なんだろうが付き合いたての彼氏と彼女が謎に廊下で繰り広げるくだらないやり取りみたいなもの。


要するに、痴話喧嘩だ。


ここは男子校だってのに。



「本当に本当に辞めるの?先輩皆がソロは蘭世だって言ってたし…」



……蘭世?


道を変えようとするが、合唱部でも聞いたその名前にやはり引っかかるものがあった。


狼狽える優しげな男の肩越しに見える、どこかで見覚えのある銀髪の顔。


どこかで見たことがある気が……。



「ソロは俺も中田がいいと思うよ。頑張ってるし、ちゃんと上手いし」


「ら、蘭世が辞めるなら俺も辞めるから」


「はあ?なんでそうなるんだよ、梅ちゃんは辞める理由ないだろ合唱好きじゃんか」



目にかかる銀髪を手でかきあげる仕草にハッキリ顔が見えた。



___梓蘭世!!



あの梓蘭世だ!


教育番組からCMに映画、そしてあの名作ミュージカル『タイガーキング』の主演も務めた天才子役の!!


学業に専念するため休業してるのは知っていたがまさか同じ学校にいるとは。


歌が上手いと合唱部の皆にソロを推薦されるのも納得がいった。


……いや、それなら芸能界で歌い慣れてる訳だし皆のためにパパッと歌ってやればいいのに。


そうしたらあんなに揉める事もなかっただろう。


休業中は歌ってはいけない決まりでもあるのか?


くだらない痴話喧嘩も吹き飛び目の前にいる芸能人に見とれて色々考えていると、梓蘭世と思い切り目が合う。



蘭世「…おい、お前何見てんだよ」



華やかさとは似てもつかない、怒ったような声に思わず目を逸らす。



蘭世「そこのお前だよ木偶の坊、口が聞けねぇのか」



『天使の蘭世くん』とか世間から騒がれていたのに本物は随分口が悪いという現実を見せられて尚、梓蘭世はあまりに綺麗だった。



「やめなよ蘭世、1年生だよ?」



痴話喧嘩の相手が梓蘭世の肩を引き止め、俺の制服のラインの色を見て優しい声で促してくれる。


よく見るとその顔は恐ろしいくらい色白でうりざね顔にかかる髪が濡れたように黒い。


今にも消えてしまいそうな性別不詳の儚さに驚くも、



「それに蘭世がかっこいいからつい見ちゃったんだよ」



……馬鹿かよ。


何故なんだ。


何故にこうも俺の周りに的はずれな事しか言わない馬鹿ばかりが集まるんだ。


このズレた感じが名古屋の常識なのか?



蘭世「梅ちゃんいつも言ってるじゃん、俺なんか大したことねえって。……で、お前は何の用?」



もらった言葉に満更でもない表情の梓蘭世は、再び俺を睨みつける。



雅臣「い、いや…俺は見てたわけじゃなくて…」



目の前に来た梓蘭世を見てやっぱり顔が小せぇだとか、目が吸い込まれそうなくらいデカくて体のラインがあまりにも細いだとか、見た目に意識がいき過ぎて考えが上手くまとまらない。


要するに間近でみる芸能人のあまりの綺麗さに度肝を抜かれたのだ。


視線逸らし、口篭ることしか出来ない俺の後ろからひょっこり顔を出したのは、



夕太「バレちゃいました?」



柊だった。


読んでいただきありがとうございます!

こちらは春チャレンジにて14話まで!

現在通常版の方で69話まで載せていますので、続きが気になる方はぜひ読んでいただけると嬉しいです♪


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ