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10.【パンドラの箱】



壁に背を向け間に柊を挟み俺達は3人とも別方向を向いて黙っていたが、数分もしないうちに柊が小声で話始めた。


この2人は黙ることができないという事を短時間で学習した俺は、絶対に関与しないと心に誓う。



夕太「…でんちゃん、謝った方がいいと思う」


楓「え、嫌だよ俺悪くないし」



そうだ。柊の言う通り蓮池は一度その態度の悪さを俺に謝るべきだ。


この2人のどちらがマシな方かと問われれば柊だと断言できる。


少しズレてるところもあるが、蓮池に比べれば断然まともだ。



夕太「でも…でんちゃんやっとのことで高校受かったのにさ…退学になったらもう行くとこないよ?先生に謝ろうよ」



.....前言撤回だ。


くそったれ、俺に謝るんじゃないのかよ。


蓮池の退学を阻止させたいだけかよ。


同じことを考えていたのか蓮池は目を瞬かせるも、なあんだと片眉を器用に上げ薄笑を浮かべた。



楓「別にいいよ適当に通信とかで」



どうぞ自ら好きな道に進んでくれよ。


お前の未来なんかどうでもいい。


相性の悪い人間が自分の周りからいなくなる可能性に密かに喜びを覚えながら、近くの教室から聞こえる教師や生徒の声に耳を澄ます。


生まれて初めて廊下に立たされたのだが恐ろしく暇だ。


あまりの手持ち無沙汰に、今何時か手元の時計を確認するくらいしかできない。



夕太「...でも補欠の補欠の補欠で合格っていう、でんちゃんの人生の運を全部使い切った合格なんだから__」


雅臣「…!!」



補欠の補欠の、そのまた補欠とは。


入学辞退者から順に繰り上がるのは分かるがそんな残酷な事をいちいち学校側から教えられたのか?


いや、ここが本命だったのなら嬉しいことではあるか。


驚きを隠せず思わず手元から目を上げると、柊が口をへの字に困った顔で俺の目を見て頷いた。



夕太 「びっくりするよね。でも本当なの」



イカれた行動にイカれた飯の量。


そして補欠…


蓮池がパンドラの箱すぎる。



楓「夕太くんほんとうるさい」


夕太「ねー、雅臣って持ち上がり組?」



柊は蓮池の機嫌などお構いなしにこちらへ話しかけてきた。


口を開きたくないがあまりに感じが悪いので、一応首だけ降って答える形をとる。


山王学園は幼稚園から大学までエスカレーター式で、柊の言う持ち上がりとは所謂内部進学制度のことだろう。


小学校、中学、高校とその都度外部受験組の受け入れもしていると案内に載っていた。


そして俺も高校からの外部受験組の1人だ。


ついでに言うと元いた東京の学校とシステムがほぼ変わりのないこの学校も、内部組と外部組の人達は相容れないのではないかと予想している。


東京では内部組だったので良く分かるのだが、正直何年も同じ学校で育ってきた奴らの中には謎ルール、謎のノリ、阿吽の呼吸みたいなものが存在する。


そのため馴染めない外部組同士が仲良くなり、内部組としばらくの間は若干の距離があるのも仕方のないことだった。



夕太「そっかー、俺達も同じ。でんちゃんはここが第1志望で一般入試で受けたんだけど他も全滅だったの」



私立の一般入試なのに全滅だなんて恐ろしい。


山王は入試の難易度もそこまででもないというのに本人の地頭の問題で相当苦労しているのだろう。


この学校はありふれた偏差値だが、立地と設備を恐ろしいほど整えることで補っている。


しかも高2からは外部大学受験特別クラスが設けられ有名私大への推薦を貰うこともできる。


地元でのんびりしたい奴は附属大学への推薦を、賢い奴は有名大学の推薦を貰えるいたせり尽くせりな訳だ。


蓮池も大学進学のためにここの推薦を狙って来たのではないだろうか。



夕太「でんちゃんのじいちゃんとパパがここの卒業生なんだけどね、でんちゃんは幼稚園から…」



段々としょぼくれる柊を見て、全落ちなんだとすぐに理解した。


親がOBなのか。


しかも幼稚園からってことは…3度目の正直どころか4度目ってことか?


地頭だけの問題ではなくこれは本人の素行の問題もあるのではないか?


そう疑わざるをえない惨憺たる結果を聞くと、柊の言うように奇跡的に合格を貰えたのなら縋りついた方が得策なのではないかと思う。



楓「どーだっていいよ。どーせ家業に勉強なんて1ミリも必要ないんだから。もうそろそろいいだろ、俺先に戻るわ」



絶対に30分も経っていないが、バツが悪いのか口を尖らせ先にさっさと行ってしまった蓮池に倣おうとすると柊に腕を捕まれ引き止められた。



雅臣「な、なんだよ」


夕太「後ろ毛まみれだから。少し屈んで?」



自分でするからと肩をはたくも、そこじゃない、と無理やり屈ませられる。


バンバン音が鳴るくらい強く俺の制服を払う柊の掌は、身長の割に随分デカかった。



夕太「短いの似合うね」


雅臣「それは…どうも」



自分からは見えないためどんな風になってるかなんて想像もつかないが、さすがにどこかで整えてもらわないとな。



夕太「これでよし!さ、戻るか」



何とか様になったのか満足気な柊が俺を手招いて囁く。



夕太「あ、そうだ雅臣。でんちゃんはちっちゃい頃からデフォであんな感じだからさ。全然気にしなくていいからね」



…デフォであれ、ね。


そんなのと幼い頃から友達でいられる柊が図太いのか、それとも全く気にしていないのか。


そして気がつけば下の名前で呼ばれているのも柊の持ち前の人懐っこさ故なのか、ただただ図々しいだけなのか。



雅臣「別に気になんかしてない」


夕太「なら良かった」



どちらにしてもこの2人と関わらないと決めた俺は、蓮池を追いかけ走る夕太の後を眺めながら少し間を空けてから教室へと向かった。



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