1.【出会い】
街中が桜色に染まるこの季節。
入学式に相応しい、雲ひとつない青空を眺めながら駅から校舎まで約5分、ほぼ一直線の下り道を歩く。
新生活が始まるからといって、胸が踊るようなことは残念ながら1つもない。
朱色のラインが入った着慣れない詰襟の学制服を身にまとい、厳重に閉じられた校門の前に立った。
『山王学園中等部・高等部』
赤煉瓦の弊に打ち込まれた文字を眺めてから、守衛さんに声をかけて門を開けてもらい、適当に前に進む。
誰もいないシンとしたこの空気が、式がとっくに始まっていることを証明していた。
式に行かないと行けない、と思いここまで来たはいいが…全く気が乗らない。
よく考えれば、入学式なんて1番休んでいい行事じゃないのか?
俺を咎める者は誰もいないし、休んだからといって、何の問題もないのに俺はこんなところまで律儀に来て…
馬鹿らしい、わざわざ何をしに来たんだ。
やっぱり家に帰ろうと、来た道を戻ろうとするも突然どこからかドンッ、ドンッと鈍い音と誰かの声が聞こえる。
「おら!!!うぉら!!!!!」
「お~…」
……喧嘩か?
まさかとは思うが、誰か蹴られてるんじゃないだろうな…。
いつもならスルーするが、何故か今日は少しだけ気になってしまい自然と足は音のする方へと動いた。
「良いね。いい感じだよ、夕太くん」
「どう、満足した?」
「うん、これぞ春って感じだね」
目に入ったのは、新品であろうローファーが傷つくのを全く気にせず入口にある桜の木を蹴り続ける小柄な男と、ひらひらと舞う花びらを見つめながら拍手を贈るおかっぱで体格のいい男。
桜の木を蹴飛ばす音だったのか。
いや、それよりもなぜ桜の木を蹴飛ばしているんだ。
よく見ると同じ朱色のラインが入った制服を着ているから、こいつらも同じ新入生なのだろう。
アンバランスな2人の頭上を桜の花びらが風に吹かれ舞う。花びらは風に身を任せて自然と舞うから美しいのだなと実感した。
幹を蹴り飛ばされて無理やり、力任せにというのは何と言うか…こう、何と言うか。
「…でんちゃんいい加減諦めなよ。こうやって無駄に俺を足止めしても意味無いよ。入学式行こうよ」
「えぇ~…だって、俺のとこあのジジイも来てるんだよ。嫌だよ、勘弁してよ、帰ろうよ」
「ダメだって……おいうんこ座りするなよ立てよ!」
「あーもう無理だ根生えてきた」
そう、情緒がない。
趣がないというか、台無しというか。
ベラベラと話続ける2人を見続け心の中で納得する。
「おい」
舞う花びらを追うように呼ばれた方に視線をやると、いつの間に立ち上がったのか、おかっぱの方が俺のすぐ目の前に来ていた。
急に話しかけられ少し驚いたが何か言いたい事でもあるのかと俺が聞くよりも早く、
「何見てんだよ、ブサイク」
そいつは冷たく鋭い視線を俺に向け、突然罵倒した。