裏口入学じゃない――という願いは届かなくて、さ。
娘の薫に向けて、私は何かを話している。
裏口入学だ――ってまわりが噂した時はさ、本っ当にしつこいわねえ、と思ったわけ。ほら、わたしは数年前まで女優だったじゃない。わたしが高校に入学したのもその時だった。
けれどもようくよく聞いてみるとね、「鈴野恵子の親戚である鈴野武夫が学校に多額の寄付をした」っていうのが根拠らしいじゃない。
わたしは異母兄を持っていて、兄の渡井翔太—―ほら、翔太おじちゃんよ、前にも一度会ったじゃない。ねえ、薫?
「ほんとぉ?」って詰め寄ったの。それで? ——それで、ね。あろうことかおじちゃん、はっきりとうなずいちゃったの。わたしは膝から崩れ落ちた。
マスコミがやってくる。前まで感じなかった苦痛が、どっと押し寄せてきて……。
それで今わたしは、富士山から飛び降りて、樹海へ行こうかなって迷っているの、ねえ、知ってるでしょ、薫?