第六十四話 帰宅
転移装置で帰宅した後、みんなは静かに自室へと戻っていった。口にはしないが慣れない舞踏会で疲れていたのだろう。私もその一人だ。
部屋に戻るとマーサが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませエレナ様。舞踏会はどうでしたか?」
「いつもと変わらなかったかなぁ。あ、でもお兄様の婚約が決まったの!」
「それは私も耳にしました。まさかアガタ様と婚約を結ばれるとは思いませんでした。」
私が何も言わなくてもマーサは重たいドレスを脱ぐ手伝いをしてくれた。我が妹が作るドレスはどれも華やかで先進的なものが多いが本人のこだわりが強いせいか衣装自体が重くなりがちだ。今度今回のドレスについての感想を聞かれる気がするのでこのことを言ってもいいかもしれない。
凰皇国の布を使用した豪華なドレスを脱いだあとはお風呂に直行する。私がドレスを脱いだ後にお風呂に入りたがることを予想していたのか湯船にはお湯がはってあった。
湯船に浸かると全身に溜まった疲労感が一気に抜けていく感じがする。頭の先から足のつま先まで、重いドレスで凝り固まった体がみるみる解けていく。
髪を洗ってくれているマーサが口を開いた。
「エレナ様は今回の舞踏会楽しかったですか?」
「まぁ、楽しくはあったよ。友人もいたし。」
アイリスのことを思い出しながら話す。しかし、どうしてもユーシェン様に言われたことが頭の中でぐるぐると回る。
恋愛、今の私から一番遠くにあるもの。別に恋をしたっていい。恋人を作ったっていいだろう。でも私はいつ死ぬかわからない身なのだ。しかも学園の中で。だから思いが通じ合っても私が死んでしまえば相手を悲しませてしまう。そう考えると気になる人からの贈りものに一喜一憂していたサーラが少し羨ましい。立場上サーラの方が自由が少ないはずなのに私の方が選択肢の幅が少なく見えてしまう。
決してそんなことはないのだろう。でも、どうしても受け入れきれられない。自分が近い未来死ぬかもしれないという事実を。
そんなことを一人で考えているとお風呂の時間はあっという間に終わってしまった。少しお湯が熱かったせいか体がいつもよりも熱っている。ネグリジュに着替え、マーサを下がらせ私はバルコニーーにでた。空には星が瞬いている。夜風が気持ちいい。少し自然の心地よさに身を任せていると隣からいつもの気配を感じた。
「グローリー。」
「舞踏会は楽しかったか?モテる女というのは辛いものだな。」
「人が真剣に悩んでることを茶化さないでよ。」
「はは、すまぬ。」
急にグローリーが現れたということは何かあったのだろうか?それともただの気まぐれ?
「今日はお前に一つ警告をしにきた。」
「警告?」
「近いうちに悪魔が動き出す。此度の舞踏会、奴らの気配を少しばかり感じた。気をつけろエレナ。」
「悪魔って、現れたのは割と最近じゃない。悪魔との戦争は百年単位でしか起こらないんじゃ。」
最後に悪魔との戦争が起きたのはお婆様の代だ。五十年は経っているが歴史的に見ても悪魔が動き出すには少し早すぎる。
「どんなことにも例外というのはあるものだ。お前が通う学園とやらでも動きがあるかもしれな。何よりお前の死の原因が悪魔関係の可能性がある。我は引き続き動きを見張るが今まで以上に気をつけるのだ。」
「わかったよ。忠告ありがとう。」
あまり実感は湧かないがグローリーが言うから事実なのだろう。来週からまたいつものように学園での生活が始まる。一体、何が起こるのか。その時の私にはわからなかった。




