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第六十一話 皇子として

 エドお兄様、トマス、私の三人でジュースを飲みながら談笑していると城のメイドが声をかけてきた。サーラが私のことを呼んでいるのだろうか?

 「エレナ様、ユーシェン様がお呼びです。」

 「わかりました。ごめん、ちょっと行ってくるね。」

 「おう、家族には俺から伝えておくよ。」

 「ありがとう。」

 エドお兄様とトマスに見送られて私はメイドについていく。てっきりサーラが舞踏会にでも飽きて私を呼びつけたのではと思ったがどうやら違うらしい。

 「要件を聞いても?」

 「私の口からは何も言えません。」

 これはメイド本人も知らないことなのだろう。そういえばユーシェン様は最初のお披露目以降会場の中で姿を見ることはなかった。一体なぜだろう?私だって本当はこんなに人が集まるところにいたくはない。しかし、病気や怪我をしているわけでもないのに王家主催の舞踏会を欠席しては我が家の顔に泥を塗ることになる。

 ある部屋の前まで着くとメイドは立ち止まった。

 「こちらです。」

 コンコンと数上ノックすると中から聞き慣れたユーシェン様の声が聞こえてきた。案内してくれたメイドは一礼すると自分の仕事へと戻っていった。私はゆっくり扉を開けるとそこには凰皇国式の寝台やソファが置かれた明らかにユーシェン様のため作られた部屋だと一眼見てわかる装飾が施されていた部屋があった。中央に置かれた腰掛けに気だるそうにしたユーシェン様が座っている。

 「ユーシェン様、わざわざ呼びにこなくても舞踏会の会場で声をかけてくれればいいじゃない。」

 「俺はああいう場が苦手なんだ。最低限の役目は果たしたし今はこうしてのんびりしてる。」

 「私だって得意じゃないよ。」

 「そうは見えないけどな。」

 深い沈黙。なんだか今日のユーシェン様はいつもの彼とは違う雰囲気を纏っていた。妙に色っぽいというかなんというか。普段見慣れない凰皇国の衣装のせいだろうか?

 「立ちっぱなしだと疲れるだろう。腰掛けたらどうだ?」

 そう言われ私は言われた通り見慣れない装飾が施されたソファに腰掛ける。向かい側に座ったユーシェン様は侍従のリーハン様に何かを頼むとまた口を閉ざした。

 数分後、お茶を持ったリーハン様が戻ってきた。そして一礼だけをして部屋から出ていく。部屋には私とユーシェン様の二人きりだ。

 お茶を啜りながらユーシェン様は話しだす。

 「サミュエル殿の婚約が決まったそうだな。」

 「もうユーシェン様の耳にも届いていたの?」

 「当たり前だ。俺はこう見えても皇族だからな。リーハンが教えてくれた。めでたいことだから何か贈り物をしなくては。」

 「一国の皇子から贈り物をされたらお兄様たちびっくりしちゃうよ。普通におめでとうだけでいいんじゃない?」

 私の一言に何か少し考えた後、ユーシェン様は口を開いた。

 「やっぱり皇族という役職は俺には重い。」

 天井を見上げながらユーシェン様は呟く。確かに国を収める一族となるとその責任は重大な物だろう。仮に王位を継がなくてもサーラのように婚姻でより王権を強固にしたりする必要がある。貴族たちにも自由はあまりないが王子、王女ともなれば自由などないに等しいだろう。

 「俺には弟がいるんだ。とても優秀なやつで俺が次の皇帝に相応しくないと思っている。それは俺も同じだ。俺は皇帝に相応しくない。むしろ弟の方が皇帝に相応しいと胸を張って言える。しかし、父上が次期皇帝は俺だと言って聞かなくてな。このままでは俺は弟に毒殺でもされかねん。」

 ユーシェン様はポツリとそう呟いた。その姿は貴族やら領地の管理に疲れた時のお父様の姿によく似ていた。よくいえば疲れている、悪くいえばくたびれている。ユーシェン様の顔には心労の色が色濃く出ていた。

 「どうして、実の兄弟なのでしょう?」

 気になったことを口にしてみる。実の兄弟同士で争うなんて私には考えられないことだった。

 「邪魔なものは消すのが一番手っ取り早い。」

 「それで留学を?」

 「そういう理由もある。お前たちの家のように皆が仲良くとはいかないんだ。」

 「ねぇ、ユーシェン様。」

 「なんだ?」

 私は深く息を吸い込んで問いかける。

 「どうしてそれを私に話したの?」

 ユーシェン様の赤い炎のような瞳がゆらりと揺れた気がした。

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