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第五十八話 舞踏会の始まり

 お兄様とアガタお姉様の縁談が無事にまとまり晴れ婚約者となった二人はとても幸せそうだった。終始ニコニコと笑みを絶やさないアガタお姉様とそれを温かい目で見つめるお兄様。私にもいつかあんな瞬間が訪れるのだろうか。そんなことを考えながらフェアリーアップルのジュースを飲む。皆酒が程よく回ってきたようで周囲には顔赤くした大人がちらほらと目に映る。

 「エレナ嬢、楽しんでいるか?」

 不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこには朝ぶりに出会うユーシェン様とそのお供であるリーハン様が立っていた。

 「もう少しで舞踏会が始まる時間だな。」

 「やっとその時間かぁって感じ。ユーシェン様たちも忙しかったんでしょう?」

 今まで顔を見なかったことから察するに凰皇国の皇子としての責務を果たしてきたのだろう。その顔には少しばかり疲労の色が滲んでいた。

 「そうだな。何人か令嬢を紹介されたよ。これを機により凰皇国との仲を親密にしようってさ。それで面接みたいにずっと令嬢と話してきた。流石に疲れたよ。」

 ユーシェン様はそう言うと私の肩に顔を乗せてきた。

 「ちょっとユーシェン様はしたないですよ!まだ婚約者もいない令嬢の肩に顔を預けるなんて!」

 リーハン様の言うとおりだ。このままでは今日話したという令嬢たちから私がどう思われるかたまったもんじゃない。

 「お疲れ様です。」

 そう言って顔を遠ざけるとユーシェン様は不服そうな顔した。

 「別に減るもんじゃないだろう。」

 「減ります。」

 「何がだ?」

 「私の評判が!」

 ただでさえ一部の人たちに男たらしと噂されているというのに!これ以上火種を増やしたくはない。しかし、自分の行動を省みると確かに男たらしと言われる由縁がわからないでもないのが腹立たしい。

 「そういえばサミュエル殿は婚姻したんだな。」

 「もうそんなに話が広まってるの?」

 「いや、あの様子を見れば嫌でも察しがつくだろう。」

 ユーシェン様の視線の先にはいちゃつく実の兄とアガタお姉様がいる。自分の親族が鼻の下を伸ばしてデレデレとしている様子を見ることはこんなにも恥ずかしいものなのかと改めて実感した。

 「幸せそうだな。」

 「お兄様はずっとアガタお姉様に恋していたから。それが叶ったから嬉しくて仕方ないんでしょ。さっきからずっと不気味なくらい笑ってる。」

 「それはいいことじゃないか。時にエレナ嬢、君にはそういった話はないのか?」

 「あるにはあるけど全部断ってる。」

 「どうして?」

 「まだその時じゃないから。」

 先日、お爺様に会いにナポトゥの一族が住む村落に行った時再度私の死の運命を見てもらった。お爺様の占いはよく当たる。残炎ながら私の死の線は未だ色こく残っているというう。お爺様は終始可愛い孫娘が早死にするのだけは避けなければと言っていた。きっと、お母様を亡くしているから尚更そう思うのだろう。

 「その時はいつ来るんだ?」

 ユーシェン様に問いかけられる。私は迷わずこう言った。

 「いつか、必ず。」

 私が死ぬか生き延びるか。そのどちらかだろう。自分の運命なんてちっともわからないが変に婚約者を作ってもし私が死んでしまったら、きっと相手は悲しむだろう。私はそんな相手を作りたくはない。

 「酷く曖昧だな。」

 深い沈黙。それを破るかのようにラッパの音色が鳴り響いた。どうやら舞踏会が始まる時間になったらしい。

 私たちは挨拶を交わすこともなくそのばを後にする。各々がいるべき場所へ歩みを進めた。

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