第五十七話 昔話
「また怪我をしたの?」
優しい声が耳を撫でる。あれは僕がまだ十歳の時の頃の話だ。
僕はエドのように剣の才能もないし、妹のように魔法の才能もない。どちらもこなすことができるがあくまで人並み程度。がむしゃらに頑張っても二人に追いつくことはできなかった。
僕は焦った。だからこそ人一倍頑張った。勉強も訓練も魔法も。でも、それらの努力が実ることはなくただただ虚しく散っていった。
あの頃の僕は生傷が絶えなかった。だからこそ彼女の優しさに気がつけば惹かれていった。
「もう、無理をしすぎよ。」
「だけど足りないんだよ。」
「確かにあなたの周囲の人はすごいけど。でも、サミュエルにも良いところがあるわ。」
その人は毎回怪我の手当てをしてくれながらそんなことを話してくれた。
それから僕にはお父様と同じような人を使う才能、領地経営についての才能があることがわかった。お父様のそばで仕事の手伝いをしていくうちになんとなく自信がついていった。そんな僕の姿を見て微笑ましそうに見守ってくれた。
彼女への想いは歳を重ねるごとに増していった。もし、結婚をするなら彼女しかありえない。でも、もし彼女は違ったら?それが恐ろしかった。僕はエドと違って臆病だ。この胸の内を明かすことができたらどんなに良いか。そんなこと何度も何度も考えた。
「こんにちはサミュエル。」
今日も彼女は優しげな笑みで微笑んでくれる。それでいい、それだけでいいそのはずだったのに。
「お兄様、もう隠すのはおやめになって。」
エレナにそう言われた時、僕の気持ちが周囲にバレていたことが嫌でもわかった。エドもニヤニヤとした顔をしている。全てばれていたのだ。なんだか頬が熱い。でも、今この場で何か行動を起こさなけれ僕は一生後悔することだけはなんとなくわかった。
僕は彼女に向かって歩いていく。ずっと恋焦がれていた彼女の元へ。
「アガタさん。」
僕は彼女の手をとり跪く。顔が熱い。周囲の視線が自然と集まっていたことがわかった。
「どうしたのサミュエル?」
「僕はずっと、幼い頃からあなたしか見えていない。アガタさんさえ良ければ僕と一緒に生涯を供にして欲しい。」
周囲がざわめく。お父様たちの驚きの声が聞こえる。恐る恐るアガタさんの顔を見るとりんごのように顔が真っ赤になっていた。
「そんな、夢のようなことがあっても良いの?」
「夢じゃない。夢なんかじゃない。僕は始めから君しか見えていない。返事を聞かせてくれないか?」
少しの間ののち、「私で良ければ」と言われた。まるで蜘蛛のうえにいるような感覚だった。自然と体が動いた。アガタさんの体を抱き上げその場でぐるぐると回る。
「夢みたいだ!ずっと、ずっとこの日を夢見ていたんだ!」
「ちょっとサミュエル⁉︎」
「なぁ、エレナ。サミュエルのあんな笑顔見たことがあるか?」
「いや、ないね。」
幸せそうに笑うお兄様と顔真っ赤にしながらも嬉しそうnアガタお姉様の姿を見ながら私とエドお兄様はそれを暖かく見守った。
お父様たちが急いで二人の元に駆け寄って行ったがそれすらも幸せに見えた。
「しばらくはお兄様とアガタお姉様のことで忙しそうね。」
「まさかお前、それが目的で・・・!」
「どうだろうね〜。」
まぁ、自分の縁談話を遠ざけるためにふっかけただけだったがまさかここまでうまくいくとは思わなかった。エドお兄様には申し訳ないが今は二人の幸せを祝うとしよう。




