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第五十二話 創世祭

ついにその日がやってきた。年に一度のお祭り騒ぎ、この日ばかりは身分関係なくドラティーネ王国の建国を祝う。

 私も街に繰り出して露店で美味しいものを食べ、花火を眺めたいところだが悲しいことに貴族には貴族の仕事がある。そんなくだらないお役目を果たすために私はドレスを身にまといいつもよりも豪華に華やかに化粧を施され、髪型もドレスに合わせてハーフアップのお団子といつも以上にメイドたちの気合いが入っているのがわかる。

 「私も街に出て遊びたいなぁ。」

 私がぼそっと呟くと背後で髪にアクセサリーをつけていたマーサが勢いよく前に出てきた。

 「いいですかエレナ様。創世祭は貴族の中でも特に大事な祭の一つなんですよ。この後開かれる舞踏会によっては縁談がまとまったりそれこそ運命の相手と出会ったり。何より王殿下と王妃殿下にご挨拶をしなければいけないのですよ。まぁ、エレナ様はサーラ様とご友人なのであまり関係ないとお思いになるかもしれませんが。」

 丁寧に丁寧にそれこそ人形を飾り立てるように私の見た目は変わっていく。まるで別人のようだ。

 「あまりこのようなことは言いたくありませんが社交界でのキーニャ家の評判は良いものではございません。それを払拭するためにも年長者であるエレナ様たちは頑張らないといけないのですよ。」

 先日、王殿下に会った際に悪魔崇拝とキーニャ家は無関係だと王家が保証すると言ってくれた。創世祭はまさに我が家の潔白を証明するにはもってこいの場だ。あまり気は乗らないが原因を作ったのは私のためいつも以上に気を引き締めなければならない。

 「エレナ様、ご支度が終わりました。」

 「ありがとう。」

 「他の皆様の様子を確認してくるので少々お待ちください。」

 そう言うとマーサは部屋から出ていった。私を着飾るために集まったメイドたちも「失礼します」と言いながら部屋を後にしていく。気がつけば部屋には私しかいなかった。

 改めて鏡を見る。メリッサがデザインしたドレスは素晴らしいものだ。この国の流行と伝統の形を守りつつユーシェン様の祖国である凰皇国の要素も不自然なく取り入れられている。

 今回の舞踏会では初めて我が家は茶色以外の衣服を着て出席することができる。なぜならサーラが強く王殿下に進言して各家門にそれぞれ色を指定するのは古いと言ったからだ。おかげで長年の呪縛から解放された私たちは今回の舞踏会で初めて茶色以外のドレスを身につけて出席することになる。

 私とお父様は赤に金糸がメインの布地が使われたものを身につけることになっていた。この家の中でオレンジ色の髪をしているのは私とお父様だけで他の兄弟たちは薄緑に金糸がメインの布地の衣服を切ることになっていた。髪色で色を分けるとはあまり聞かない話だがメリッサなりにみんなにはそれぞれ似合った衣服を身につけて欲しいという思いが込められているのだろう。

 そんなことを考えていると扉がノックされた。マーサかと思い「どうぞ」と声をかけるとそこにいたのはユーシェン様だった。

 「ユーシェン様、どうしたの?」

 他国から留学生として来ているユーシェン様ももちろん今回の舞踏会に参加する。普段はドラティーネの紳士が身につけているような衣服を好んで着ているが今日は凰皇国の伝統衣装、それも一目見て格式高いものだとわかるものを着ていた。

 「思いの外準備が早く終わったからな。エレナ嬢の様子を見にきたんだ。」

 「そうだったの。まぁ、部屋に入って。お茶も何もないけど。」

 「それじゃ失礼するよ。」

 ユーシェン様は部屋に入り、ソファに腰掛けた。私とは向き合う形で座っている。

 「エレナ嬢はいつも美しいが今日は一段と華やかで綺麗だな。」

 「ありがとう、ユーシェン様もその衣服とても似合ってる。凰皇国の衣服ってこの国じゃあまり見かけないけどそういう意匠のものが多いの?」

 「いや、これは特別な時に着るものだ。今回舞踏会に招待されて急いで母国から送ってもらったんだ。」

 そんなことを話していると再び扉のノック音が聞こえた。今度こそマーサだろう。私は再び「どうぞ」と声をかけるとマーサは少し驚いた顔をした後、こう言った。

 「皆様準備が整いました。エレナ様とユーシェン様も移動室へとお向かいください。」

 「わかった、すぐにいく。」

 「俺も一緒に行こう。」

そうして私とユーシェン様は共に移動室へと向かった。

 移動室に着くとすでに私以外の家族が揃っており、私たちの姿を興味深々と言った様子で見つめてくる。

 「エレナ、今日はとびきり綺麗だね。ユーシェン様もそちらのお衣装とてもお似合いです。それじゃ、皆揃ったことですし王城に向かいましょうか。」 

 お父様はそれだけ言うと移動鏡に手を触れた。私たちもそれに続いていく。

 私たちがこれからいくのは華やかな貴族の社交場なんかではない。様々な思惑と疑念、欲望が入り混じった値の流れない戦場だ。私は改めて気を引き締めて移動鏡にそっと手を触れた。


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