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第四話 国王主催お茶会

お母様が亡くなってから五年の月日がながれ、私は十歳になっていた。昔に比べたら体も随分楽になり、熱をだす頻度も下がっていた。

 十歳にもなるとある程度社交の場に出なくてはいけない。そのため、私は出たくもない貴族の子女が主催するお茶会に足を運んだりする機会が増えていた。もちろん、一人ではなくお兄様も一緒だ。二人で嫌そうな顔をしながら移動鏡に入るのはもはや日常と化していた。

 そんな日々を過ごし、初夏に差し掛かった頃、毎年行われる国王が主催の大規模なお茶会へと参加することになった。

 お兄様は数年前から参加しているが私は今年が始めてだ。どういうものなのか聞いてみるととても嫌そうな顔で「面倒臭い。」と言った。なんでも見知らぬ令嬢がわんさか寄ってきて鬱陶しいらしい。でも、それも仕方がない気がする。あまり気にしたことがなかったが、私のお兄様は他の貴族令息の中でもかなりイケメンな部類だ。

 お母様譲りの薄緑色の髪色と瞳はどこか神秘的で黙っていれば今にも消えてしまいそうな儚さがある。両親の顔の良いところを全部揃えた顔はまさに人形のようで本当に黙っていればこんな神秘的な人が存在するのかと思ってしまう。

 一方、私は顔こそお母様そっくりだと皆から言われるくらいそっくりらしいがお父様譲りの赤毛とそばかすが邪魔をしてお兄様のように人が寄ってくると言うことはない。唯一お母様から受け継いだ薄緑色の瞳が私の誇りだった。

 そんなことは置いておいて、刻一刻とお茶会の日にちが近づいていた。それに伴い私は普段の授業に加え礼儀作法をみっちりと覚える必要があり、忙しい日々を送っていた。

 そしてついにお茶会の日がやってきた。

 「二人とも準備はいいかい?」

 いつもシャツにベストというラフな格好を好むお父様は辺境伯らしい落ち着いた茶色の衣装を身につけていた。髪も整えられ、胸元にはお母様の瞳の色と同じ色をした宝石のブローチをつけてる。

本来、各々が似合う色合いの衣服を見に着けるべきだが、国王が主催の催しに招待された際は各家門ごとに指定された色があるためその色の衣服を身につけることが暗黙の了解となっている。ちなみに我が家は茶色が指定された色のため、茶色ベースの衣装を身につけることが多い。

 お兄様と私もお父様と同じような色合いの落ち着いた茶色の衣装を身に纏っていた。

 お兄様はチェックのベストに白いリボンシャツを身につけ、ベストと同系色のズボンとブーツを身に纏っている。

 私はお兄様と同じリボンブラウスに茶色の生地に小花柄が刺繍されたジャンパースカートを着ていた。

 「よし、時間になったな。それではいってくる。」

 「お兄ちゃま、お姉ちゃまいっちゃうの?」

 「私たちもいく!」

 移動鏡を通る直前、二つの小さな影が私たちの歩みを止めた。

 「メリッサ、トマス。」

 お父様は二人の方へ向かい、同時に抱き上げると頬にキスをした。

 「お兄様もお姉様もお父様もすぐに帰ってくるから。大人しく待てるかい?」

 メリッサとトマス。お母様が死んだ日に生まれた双子の弟と妹だ。最初は大好きなお母様を殺して生まれたと憎悪を抱いていた時期もあったが、それも一瞬で二人の可愛らしさにあっという間に虜になった。

 「お父様のいうとおりすぐに帰ってくるから。」

 「あんな退屈な茶会よりもお前たちと遊ぶ方がよっぽど楽しいからな。」

 私たちはお父様に近づき、双子の頭をそっと撫でる。すると二人は満足そうに目を細めた。

 「早く帰ってきてね。」

 「あぁ、約束するよ。それじゃ、いってくるね。」

 お父様は二人を下ろし、移動鏡へと向かう。私とお兄様もそれに続き二人に「行ってきます!」と声をかけ、お父様の後を追いかけた。

「移動鏡を使っての移動は我が領地にとってはありがたいものだな。あっという間に王宮に着いてしまった。」

 お父様がそういうと目の前から王宮の使用人がやってくる。

 確かに、移動鏡がなければ私たちが住む辺境の地から王都までやってくるのはかなり大変だろう。きっと、このお茶会に参加するために一週間以上かけて移動する必要があるかもしれない。

 移動鏡は魔力を持つ全ての人が使える移動装置で、この発明のおかげで人々の移動や物流などが格段に効率化された。かつては馬を使っての移動が主流だったが、今では馬車を使うのは街の中での物流のみで都市間での移動は移動鏡が主流になっていた。

 「キーニャ辺境伯様でお間違いないでしょうか?」

 「間違いありません。」

 「そちらのお嬢様は今年十歳になられた御息女様でお間違いありませんか?」

 「えぇ、そうです。エレナ、ご挨拶しなさい。」

 お父様に促され、私は一歩前に出る。スカートの裾を少し持ち、礼をする。

 「今年十歳になりました。エレナ・ディ・キーニャと申します。この度はご招待いただきありがとうございます。」

 「はい、ありがとうございます。それでは、お子様たちはこちらのメイドがご案内いたしますのでキーニャ辺境伯様は私に着いてきてください。」

 「わかりました。それじゃ、エレナ、サミュエル。また後で会おう。」

 「はい、お父様。」

 「また後ほど。」

 お父様と別れ、私たちは、メイドについていく。

 「ねぇ、今どこに向かってるの?」

 小声でお兄様に尋ねる。

 「王室の庭園。子供達はそこで遊んだりお菓子食べたりするんだよ。」

 お兄様はもうすでに帰りたいといった様子で答えた。なるほど、お兄様は毎年そこで様々なご令嬢をメロメロにしているわけだ。

数分歩くと目的地である庭園へと辿り着いた。我が家の庭園が世界で一番素晴らしいものだと思っていたがどうやらそれは違うらしい。神話の本に出てくる森を切り取ったような美しい光景がそこには広がっていた。

 咲き乱れる花々にどこからか聞こえてくる鳥の声。木々は瑞々しい緑色で私たちを歓迎するかのように輝き、奥にある池には蓮の花が浮かんでいた。

 「すごく綺麗!妖精の庭みたいだね!」

 「これはさるお方から聞いた話なんだが、この庭には本当に妖精が住んでいるらしいぞ。」

 聞き慣れた声が後ろからして私とお兄様は同時に振り向く。

 「よっ!会うのは先月ぶりか?」

 そこにいたのはエドお兄様だった。家門の色である濃い緑色の衣服を身につけていていつもとは違う印象だ。

 「エドじゃないか。エレナもいるし退屈することもないな。」

 「いつもみたいにご令嬢に囲まれることもないってことだ。」

 二人はにっこりと笑いながら私の方を見た。どうやら私は二人の虫除けとして活躍する必要があるらしい。

 私にも友人と呼べる友人がいればそちらに行くのだが悲しいことにこの二人以外に知り合いはいない。大人しくいつもと同じように三人で話していると急にラッパの音が響き渡った。

 「ダヴィデ王子殿下とサーラ王女殿下のご入場である。」

 その言葉を合図に皆がパッと礼をする。奥から誰かが歩いてくるのが見えた。

 「みんな、顔をあげて。今日は茶会に来てくれて感謝する。菓子も遊び道具もあるから心ゆくまで楽しんでほしい。また、みんなに紹介する人物がいる。今年十歳になった私の妹のサーラだ。」

 「初めましてみなさま。ドラティーネ王国第一王女サーラ・アメティスタ・ドラティーネです。本日は皆様に会えてとても嬉しく思います。」

 そう言うサーラ王女の顔を見た瞬間、私はその美しさに驚きのあまり声が出そうになってしまった。王子殿下は美しい金髪に王族の証である眩しいアメジストのような瞳をした童話に出てきそうな外見をしているが、サーラ王女は褐色の肌に金糸のように輝く金髪、チョコレートのような色合いの深い茶色の瞳は太陽の光を受けて美しく輝いていた。

 しかし、サーラ王女が出た瞬間私は聞こえてしまった。周囲の人の声が。

 「ねぇ、見てあの肌と瞳。本当に王子殿下の妹なのかしら。」

 「噂だと不義の子って聞いたけど本当なのかな。」

 「王子殿下はあんなにも美しいのに王女殿下ときたら・・・・。」

 これだから社交の場は嫌だ。皆他人の見た目とか衣服の豪華さしか見ていない。その声は王女殿下にも届いているのか彼女は少し怯えた様子で私たちの方を見つめていた。

 「エドお兄様。私、今年初めてお国王主催のお茶会に参加なのでぜひ王子殿下と王女殿下にご挨拶をしたいんだけど・・・・。」

[22:32]

私はエドお兄様にそう聞くと「少し待ってろ」と言いエドお兄様は王子殿下の元へと向かっていった。どうやら私の読みは当たったらしい。

 エドお兄様は本来であればこんなにフレンドリーに接していい身分ではない。両親同士の仲がとても良いから許されている関係性だ。

 エドお兄様は公爵家の中でも国の要である四大貴族の一つ、ルバッフォ家の人間だ。王族との付き合いがあってもおかしくはない。

 少しして、エドお兄様は戻ってきた。

 「挨拶は大歓迎だってさ。ただ、紹介する人がまだいるからそれが終わってから来てくれだって。」

 「持つべきものは優秀な友だな。よかったなエレナ。」

 「ありがとう、エドお兄様!」

 そんなことを話していると再び王子殿下が何かを話し始める。

 「みんな、もう一人紹介する人物がいる。今、王都には我がドラティーネ王国と深い交流のある凰皇国の皇族達が訪問している。さぁ、入ってきてくれ。」

 「みなさま、凰皇国の第一皇子シュ・ユーシェンと言います。本日はダヴィデ殿下の計らいでこのような場にご招待いただけたこと嬉しく思います。」

 異国から来たという皇子はあっという間のその場の話題の中心になった。

 濡れガラスのような黒髪に赤い瞳は鷹のように鋭い。身に纏っている赤い民族衣装も相待ってエキゾチックな雰囲気だ。

 「では、挨拶はここまで。みな心ゆくまで楽しんでくれ。」

 ダヴィデ殿下の一言で会場に再び活気が戻る。異国から来た皇子はあっという間に令嬢たちに囲まれていた。

 一方、私たちは王子殿下たちに挨拶すべく、彼らのもとに向かっていた。

 「よう、ダヴィデ。」

 この国の王子に対してなんてフランクな挨拶なんだと驚いていると王子の視線がこちらに向いた。

 「君がエドアルドが紹介したいといっていた令嬢だね。」

 「お、お初にお目にかかります。私、キーニャ辺境伯長女のエレナ・ディ・キーニャと申す者です。王子殿下にお会いできて大変光栄でございます。」

 「そんなに畏まらなくてもいいよ。・・・そうだ、君はサーラと同い年だと聞いている。そこのメイド、サーラを呼んできてくれ。」

 「かしこまりました。」

 王子の一言で私はサーラ王女にもご挨拶することになった。たかが辺境伯の令嬢がここまでしていいのかと頭がぐるぐると回る。しかし、王子に挨拶した時点でそれも今更かとも同時に思った。

 少し経って、強張った様子のサーラ王女がやってきた。改めて近くで見るとより美しく、可愛らしい。

 「サーラ、この方はエレナ・ディ・キーニャ令嬢だ。お前と同じで今年十歳になったばかり、仲良くなれるんじゃないか?」

 王子の一方的な物言いに少し何か言いたげな顔をしながらもサーラ王女は私の方を向き、お辞儀をした。

 「初めまして、エレナ様。お会いできて嬉しく思います。」

 「お会いできて光栄です、サーラ様。仲良くしてくださると嬉しいです。・・・ところで、失礼を承知で少しよろしいですか?」

 「はい、なんでしょうか。」

 「サーラ王女殿下はとても可愛らしく美しいですね。私、こんなにも美しい方初めて見ました。金糸のような髪にチョコレートのように深い瞳、褐色の肌も相待ってエキゾチックで少し謎めいた雰囲気で、本当に本当に美しいです。」

 私が思わずそう言うとサーラ王女は驚いた顔をして、次の瞬間には泣いていた。王女を泣かせてしまったこともあり、どうすれば良いのかオロオロしているとダヴィデ王子が深々と頭を下げた。

 「ありがとう。」

 「え、あのダヴィデ様お顔を上げてください。サーラ様本当に申し訳ありません。」

 今度は私が頭を下げるとサーラ王女は「違う、違うのです。」としゃくりを上げながら言った。

 「私のことをそのように言ってくださる方は初めてで、嬉しくて私どうしたらいいかわからなくて、エレナ様ありがとうございます。」

 「とんでもないです。・・・あの、よかったらこちらをお使いください。」

 私は持っていたハンカチを手渡すとサーラ王女はそれを受け取ってくれた。

 「ありがとうございます。・・・あの、エレナ様一つお願いがあるのですが。私、こういった欲を抱いたことが初めてですごく、すごく怖いんです。でも、どうしてもエレナ様にお伝えしたいのです。・・・私のお友達になってはくださいませんか?」

 サーラ王女の言葉に一同が目を丸くした。王子に至っては小声で「あのサーラが」と呟いている。おそらくこれはサーラ王女の一世一代の告白だ。これを断るなんて乙女が廃る。それに何より私がサーラ王女とお友達になりたかった。

「私でよければ喜んで。」

 「やった!」

 そう言い笑顔を見せるサーラ様はとても可愛らしかった。そのまま四人でおしゃべりをしていると後ろから「エレナ様〜」と声をかけられた。

 振り向くとそこには桃色の髪と瞳をした令嬢が立っていた。面識はない。

 「少し、お話があるんです。とっても、とっても大事なお話が。二人っきりでおしゃべりしましょう。」

 令嬢はにっこりと不気味に笑うと手招きをした。

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