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第四十七話 さすがエドお兄様

 エドお兄様に連れられるまま私たちは廊下を歩いていた。窓からは眩しい陽の光が入り込んでいる。今の荒んだ心にはあまりにも眩しすぎて私は咄嗟に窓から目を離した。

 エドお兄様は案内をする間ずっと手を離さなかったしなにも喋らなかった。今の私には逆にそれがとてもありがたく感じた。

 「よし、着いたぞ。」

 エドお兄様はある扉の前に着くと慣れた様子で鍵を開けた。

 外には花畑が広がっていた。ところどころに木が植えてあり木陰もある。ここで休めたらさぞ心地が良いだろうと思うような綺麗な場所だった。

 「エドお兄様ここは?」

 「俺の秘密基地。入学してすぐに荒れた庭を見つけたからさサボるのにちょうどいいじゃんって思って。でも荒れたままなのも居心地が悪かったから魔法とか使ってコツコツここまで仕上げた。」

 目の前には季節問わず綺麗な花が植えられていた。魔法を使ってとの話だったのでさすが緑を司るルバッフォ家の長男なのだなと改めて実感した。

 「この木なんてさ最初はこんなに小さかったんだぜ?それを毎日欠かさず魔力を注ぎ続けて今じゃこの通り。俺の背丈なんて越えちまった。」

 「でもこんなに大きな木が生えてたりするのに他の人は気づいていないの?」

 「幻影魔法で隠してる。あそこの扉の鍵を持ってるのも俺だけ。つまり俺による俺だけのために作られた花の楽園ってことだ。」

 そう言いながら庭を見つめるエドお兄様の顔はどこか誇らしげだ。それも当然だろう。常人なら五年以上かかるであろう作業をたった二年で終わらせてしまったのだから。

 私が庭に見とれているとエドお兄様が鍵を手渡してきた。

 「それってここの扉の鍵じゃ。」

 「俺今年で学園卒業するだろう?ちょうどこの庭の管理人の後継者を探してたんだ。どうだ?やって見る気はないか?」

 「そんな私でいいの?」

 「エレナにやって欲しいんだ。」

 そう言ってエドお兄様は私の手のひらに鍵を握らせた。

 「お前ならできる。」

 「ありがとう、エドお兄様。任せて頂戴。」

 改めて庭を見渡す。私が抱えていた黒いモヤモヤとした気持ちがスッと晴れて行くような、この爽やかな風といっしょに私の気持ちの整理をつかせてくれるようなそんな気がした。

 「にしてもお前も大変だな。上の学年でも噂になってるよ。一年のエレナ・キーニャは悪魔の子だって。」

 「そんな上級生の方にも広がってたの・・・。」

 その言葉に私は絶望した。一体、この学園のどこに私の居場所があるというのだろう。

 「そんなわけないのにな。俺とサミュエルでんなバカなこと言ってないで勉強でもしてろって言ってるんだけどさ。貴族ってのはそういう話が大好きだからな。なかなか収まらなくて。」

 エドお兄様は困ったようにため息を吐いた。お兄様とエドお兄様まで困らせるなんて私はなんて迷惑なやつなのだろう。そう思った。

 「いいか、エレナ覚えておけ。貴族というのは表面上はよくしてくれても人を蹴落としたり踏み躙ったり、利用したり。そんなことを常に考えている。お前の友達は違うようだが今回のこと程度でへこたれてたら貴族社会でやってなんかいけない。エレナ、お前はなにも悪くない。堂々としていろ。背筋を伸ばして。その態度が自然と周囲の反応を変えてくれる。下を向くな。前を向け。お前には友人も家族も俺だっている。みんなエレナの味方だ。だからそんな顔で泣くな。」

 そう言われて私は初めて自分が泣いていることに気がついた。

 「ほら、ハンカチ。」

 エドお兄様がハンカチを渡してくれた。ありがたくそれを借りて涙を拭く。しかし、涙は拭いても拭いても溢れてきて止まらなかった。

 「辛いな。大丈夫。エレナには俺たちがついてる。」

 そう言ってエドお兄様は私の肩を抱き優しく撫でてくれた。それが心地よくて、むず痒くてよくわからないが私はさらに泣きじゃくった。エドお兄様はなにも言うことなくただ私の背を撫でてくれた。

 私がやっと落ち着いた頃、終業のベルが鳴った。

 「もうそんなに時間が経っていたのね。」

 「さすがに二回連続でサボるわけには行かないからな。いきたくはないが戻るか。」

 エドお兄様は立ち上がり扉の方へと向かっていく。私も後を追うように着いて行った。

 「教室までは一人で戻れるか?」

 「うん、大丈夫。」

 「そっか。あまり無理するなよ。」

 そう言い残しエドお兄様は立ち去っていった。私も教室に戻るためにその場を後にした。


 エレナと別れた後、教室に向かって歩いていると声をかけられた。

 「エド。」

 「サミュエルじゃないか。どうしたんだ?」

 「エレナのことだよ。ありがとう。」

 そう言うと深々と礼をしてきた。兄であるこいつにはエレナの苦しみが俺なんかよりもずっと伝わっているのだろう。何よりキーニャ家全体が悪魔を崇拝しているという噂まで出る始末。これをどう収拾させるかはエレナとサミュエルの手にかかっていた。

 「惚れた女に当然のことをしたまでだよ。」

 「しかし、これ以上僕たちには関わらない方がいい。君の家にまで汚名がつく。」

 サミュエルはいつになく真剣な顔で言ってきた。俺はそれを見て笑ってしまった。ここまできて引き下がるほどやわじゃない。

 「おいおい、お前らしくないぞ。もっと図々しくなれよ兄弟。俺たち親友だろ?」

 「あぁ、世界一のな。ありがとうエド。」

 「なんのことやら。」

 そう言い俺は教室に戻った。サボったあと特有の雰囲気と俺に気があるらしい令嬢が近づいてくる。全くめんどくさい。

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