第四十三話 嵐の幕開け
「あら、あなた達だけが残るなんて英雄気取り?」
「そうかもね。」
リーシャは杖を向けながらこちらにゆっくりと近づいてくる。私は少しずつ距離をとりながらその時を待った。
「あなたがいるせいで私って本当に可哀想なの。わかる?貧乏な男爵家の長女として生まれて好きな衣服もろくに切ることができない。唯一良かったのはこの顔かしら?私がいなくなってからたった数百年で女神信仰は薄れてて力もろくに発揮できないし本当に困っちゃう。これも全部あなたのせい。あなたが生まれたせいよ!」
そう言うなりリーシャは紫色のナイフのようなものを宙にいくつか浮かべ私に向かって放ってきた。紫色の魔法なんて見たことがないが以前お婆様から聞いたことがある。紫の魔法は憎悪の証。それを使うものは全員等しく醜いと。
紫のナイフを防衛魔法で防ぐと今度は灰の量で私に向かって降り注ぐ。かわしながら防衛魔法を使い隙を伺う。
「私にないものを全部持ってるあなたが憎い。なんで昔から龍神族は私の邪魔ばかりするのかしら?」
「そんなの知らない!」
隙が全くない。このまま防御しているだけではいつか攻撃を喰らってしまう。どうするべきか、その時だった。
「隙あり♡」
「しまった!」
放たれた紫色のナイフが私の右腕に突き刺さり消える。血は出ていない。しかし、患部はジクジクと痛み頭の中で何者かの声がこだまする。
「何この声!」
「今までのぶん存分に味わってもらうわ!その後に一番酷い頃仕方をしてあげる。この女神ヘラノーラが直々に手を下すのよ。ありがたく思いなさい。」
感じたことのない痛みに動けずにいてもリーシャは容赦なく同じ魔法を何度も打ち込んでくる。腹部に、足に、頭に。憎悪の声は止まらない。気がおかしくなりそうだった。
私、このまま死ぬのかな?不意にそう思った。だって、そういう運命だし。ここで死んでもなんの違和感もない。いつ死ぬか怯えることがなくなるなんてなんて魅力的なのだろう。そう考え始めた時だった。
『諦めるの?』
頭の中に声が響いた。憎悪の声とは違う澄んだ美しい声だった。
『あなたは諦めるの?』
もう一度問いかけられる。家族の顔が浮かんだ。そうか、私は家族のためにも友人のためにも、何より私を産んでくれたお母様のためにも今ここで死ぬわけにはいかないのだ。
「諦めたくない・・・!」
『それなら力を貸してあげる。』
瞬間、私の体は光に包まれた。腕が、足が、背中がむず痒い。しかし、確実に何かが変わっていることがわかった。
「何その光!まさか!そんなことあっていいはずがない!」
リーシャの叫ぶ声が聞こえる。光が止んだ。ふと腕を見ると私の手にはグローリーと同じような鱗が生えていた。それに背中にも違和感を感じる。後ろをチラリと見るとそこには鱗と同じ夕日のような色をした龍の翼が生えていた。
「どういうこと?」
「我が娘がお前の中にあった真の力を解放したのだ。」
今まで空気同然だったグローリーがそう説明した。
「真の力?」
「龍神族の力だ。その硬い鱗があればあの娘の攻撃も防げるだろう。おまけに空も飛べる翼つきだ。我が娘ながら大盤振る舞いだな。」
「嘘だ嘘だ嘘だ!龍神の力を持つものがこの世界にいて良いはずがない!エレナ、お前は絶対にここで殺す!」
「殺せるものなら殺してみなさい!」
あの光に包まれてから憎悪の声は消え去り、体の奥底から力が湧いてくる。これなら勝てる。そう、確信した。
足を一歩踏み出してリーシャに近づく。早い。あっという間にリーシャの顔の目の前まできた。そしてお腹に渾身の蹴りをおみまいする。いつも以上のパワーに少し驚きつつも吹き飛んだリーシャの元に近づく。リーシャはその場に倒れ込み、咳き込んでいた。
「龍神の娘がぁ!」
そう言うリーシャを無視して私は彼女の腹部に足を置き動けないようにする。そして顔を覆うように手のひらを置いた。
「眠れ。」
私が睡眠魔法をかけると何かを叫びながらリーシャは眠った。
「グローリー。」
「なんだ?」
「リーシャの中からヘラノーラの魂だけ取り除くことってできる?」
私の提案にグローリは深いため息を吐いた後コクリと頷いた。
「そう来なくっちゃ。」
「しかし、この娘は長い間ヘラノーラに支配されていた。取り除いたところでどうなるかわからないぞ。」
「それでもあの性悪女神がいるよりはマシでしょ?」
「それもそうだな。」
グローリーは眠っているリーシャに近づき胸に手を当て何かを呟く。おそらく呪文か何かだろう。
リーシャのことで頭がいっぱいでユーシェン様のことをすっかり忘れていた。ユーシェン様の方に視線を向けると白熱した戦いが繰り広げられていた。




