第四十二話 嵐の始まり
「今回の授業では大地から魔力を得る方法を教える。全員杖を持ち一定間隔で並びなさい。」
私のことなど気にも留めずお婆様は私と良く似た杖を出した。背後からはクラスメイトのコソコソ話が聞こえる。
「キーニャってエレナの名字だよな?」
「私、聞いたことある。キーニャ辺境伯に嫁いだ王女がいるって。」
「まさかその人が第三次悪魔大戦の英雄アレッシア様だなんて・・・。」
全部聞こえている。まぁ、驚くのも仕方ないだろう。私のお婆様は第三次悪魔大戦にて王女ながらその潤沢な魔力と意表をつくような作戦、そして剣と魔法の実力を持ってして数多くの武勲を挙げたこの国の英雄だ。一時は次の王はお婆様にしようという話も出たくらい目覚ましい活躍だったそう。まぁ、その全てを蹴って私のお爺様と結婚したわけだが。
「集中しなさい。」
お婆様がピシャリとそう言うとその場の全員が黙った。その時、果敢にも手を挙げる勇者がいた。リーシャだ。
「アレッシア様はとてもお強いんですよね?」
「今は授業中だ。リーシャ・ヘルン。口を慎むように。」
「まぁ、私の名前を覚えてくださっているのですね。とても嬉しいです。」
瞬間、視界の端で何かが光った。魔法だ。誰に向かって打った?お婆様だ。
私の体は反射的に動き、まっすぐお婆様の元へと向かう。お婆様を押し倒すように庇うと私の二の腕に魔法が当たった。
「どうしたんだいエレナ?」
いつもの調子のお婆様を無視して私は魔法が放たれた方をまっすぐ見る。そこには背の高い男がこちらを見下ろすように立っていた。
「あなた、お婆様を攻撃するなんて何者?」
「攻撃?エレナ腕を怪我してるじゃないか!まさか私を庇って・・・。」
「気にしないでお婆様。お婆様は怪我はない?」
「エレナのおかげで傷ひとつないよ。あの程度の攻撃に気づかないとは私も歳だな。」
男がこちらにゆっくりと降りてくる。皆の視線が自然とその男に向いた。私はお婆様を庇うように杖を強く握る。
「この地にはかつて強い女神ヘラノーラ信仰がありました。」
男は急に話し始めた。その衣服はよく見ればヘラノーラ教会に所属する司祭が身につけているものだ。
「しかし、度重なる悪魔の襲撃、干ばつ、嵐。いつしか人々はこの大地を作り上げた女神ヘラノーラではなく事象を解決した人間を神のように崇めるようになりました。しかし、どんな時でも救いはあるもの。我々ヘラノーラ教会にある信託を授かりました。女神ヘラノーラの魂を宿す子あり、と。」
クラスメイトの波をかき分けて一人の少女が目の前に現れる。見慣れた桃色の髪に同じく桃色の瞳。私を殺そうとした男爵令嬢。リーシャ・ヘルンだった。
「もう、ゼゼ。来るのが遅くってよ。」
「申し訳ありませんリーシャ様。いえ、女神ヘラノーラの生まれ変わり、我らが神ヘラノーラ様。」
「うん、出だしにしては好調じゃない?まぁ、この生き残った英雄と龍神の娘を殺しさえすれば私の地位は安泰。またヘラノーラの時代がやってくるわ。」
そう言い高らかに笑い声をあげるリーシャ。その姿はもはや人間ではなく醜い怪物のように見えた。
それに英雄と龍神の娘。これは私とお婆様で間違いないだろう。今ここでリーシャとこのゼゼという男は私たちを殺そうとしている。
「お婆様、他の生徒を連れて避難して。」
「それじゃあの娘は誰が相手をするんだっていうんだい?」
「私。」
目の前に立ちはだかるリーシャとゼゼを目の前にして杖をぎゅっと握りしめる。
「そんな無茶な。私が時間稼ぎをしているうちに逃げなさい!」
「お婆様は講師でしょ?生徒を守る義務があるはず。それに、リーシャは私が倒さなくちゃいけないの。」
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべるリーシャを睨みつける。私の様子を見たお婆様は説得を諦めたのか立ち上がり他のクラスメイトの避難を開始した。それでいい、それでいいんだ。長生きしたいとか言っておきながら死地に飛び込む。きっと、私はこういう運命なのだろう。自身の運命に呆れつつ二人相手にどうやって戦うか作戦を組み立てる。すると意外な助っ人が手を上げながらこちらにやってきた。
「二対一はいささか不公平ではないか?そこのゼゼという男。かなりの猛者と見た。ぜひ手合わせをお願いしたいのだが。」
「ユーシェン様⁉︎」
「エレナ、君だけ良い顔をするなんて不公平じゃないか。」
「すごく危険なのよ。命にだって関わる。いますぐ避難して。」
「断る。もう決めたんだ。これで君はリーシャ嬢との戦いに専念できるだろう?」
「そうだけど・・・。」
私が黙ると背後からよく見知った気配がした。
「グローリー。」
「ついに本性を現したか。エレナ、すまないが今の私にヘラノーラと戦えるほどの力はない。その代わりお前たちにこの龍神グローリーが最大限の援助を行なってやろう。」
「女神の生まれ変わりに龍神?もうわけがわからなくて笑いが出てくるな。しかし、援護はありがたい。」
「ありがとううローリー。ユーシェン様、詳しい話はこれが終わったらするね。」
何度目かわからない。安心するために杖をぎゅっと握り直し戦闘体制に入る。それはユーシェン様も同じだった。私たちが臨戦体制に入ったのを見てリーシャはニタァと気味の悪い笑みを浮かべその杖をこちらに向けてきた。
戦いの始まりだ。




