第四十一話 嵐の前触れ
学園に着き、席に座ると真っ先にアイリスがこちらに向かってきた。
「おはよう、エレナ。エドアルド様とのピクニックはどうだった?」
ワクワクとした様子で聞いてくるアイリスに少し戸惑う。楽しかったは楽しかった。しかし、隣に座っているユーシェン様がなぜか先日のピクニックの日から尋常じゃないオーラを醸し出していて話しずらい。しかし可愛い友人の質問のため隣はできるだけ見ずに私は話し始めた。
「すごく楽しかったよ。エドお兄様のお屋敷には綺麗な池があってね。その側でお互いに持ってきた本を交換し合って読んだり昔の話をしたり。あとはピクニックだから一緒にご飯も食べたよ。」
「他に何かなかったの?」
「何もないけど。」
「私、なんだかエドアルド様が不憫に思えてきたわ。」
アイリスが言っていることはエドお兄様は私に好意を持っていて求婚までしているのに私がそれを無視し続けていることだろう。エドお兄様は異性というよりも家族に近い存在だし、何よりいつ死ぬかわからない今の状況でのうのうと婚約を結ぶ気にもなれなかった。
ガサツなエドお兄様だが家柄よし顔よし人当たりよしとモテる要素を持っているため学園に入学してから女性の先輩に何度か呼び出しをくらったりもしたが私の考えは変わらない。婚約を受けるにしても私の死の線がなくなってからの話になる。その頃私は二十歳を超えているだろう。貴族は学園を卒業後すぐに結婚をすることが多い。私が納まるスペースなどないはずだ。
「エレナってたまに残酷な人だなって思うの。」
「え、なんで。」
「だってエドアルド様の好意に気付いているんでしょう?それを無視して、拒否して。そんなことしたら相手のお方はとても傷つくわ。」
まさかアイリスがそこを見抜いているとは思わなかった。確かに私の行動は残酷に見えるだろう。家族同士の仲が良くなければ家柄的に私が吊し上げられていたことは間違いない。そこはエドお兄様の優しさであることは十分理解していた。
「あ、バルド先生が来た。とにかく、エレナはもっとエドアルド様を大事にした方がいいと思うよ。」
「わかった。助言ありがとうアイリス。」
そういうとアイリスは駆け足で自分の席に戻っていった。なんだか気まずい。先生の話が頭に一切入ってこない。隣をチラリと見ると少し眉間に皺を寄せたユーシェン様がじーっと黒板を眺めていた。
(グローリーが言ってた罪な女ってこういうこと?でも、本当にやめてほしいんだけど。)
内心そう呟きながら私も同じように黒板を眺めた。どうやら今日の魔法実技の授業にはスペシャルゲストが来るらしい。その話が出た途端、教室中がザワザワと騒がしくなった。
「誰がくるかは授業までのお楽しみだ。話はこれで終わりだが何か質問などある生徒はいるか?」
クラスメイトの一人が手を挙げた。
「テンデ、なんだ?」
「バルド先生、スペシャルゲストのヒントだけでも教えてくださいよ。」
「ヒント、ヒントか・・・。」
バルド先生は少し考えたのちこう言った。
「この国の英雄だ。」
その一言で教室がさらにざわめきたつ。一方私は英雄という言葉を聞いた瞬間嫌な予感がした。この国で英雄と言われている人物で今も生きているとなると数が絞られる。そんなまさかね、と思いながら私は授業の準備を始めた。
そして来るべき魔法実技の授業の時間がやってきた。皆がそわそわとしているのがわかる。白いお髭がチャームポイントのフォラン先生が実技場に入ってくると騒がしかったクラスメイトたちが途端に静かになった。
「えー今日は特別授業ということで講師を呼んでいます。それでは講師の方、入ってきてください。」
場のボルテージが最高潮に達する。隣に立つアイリスもそわそわとしている。ユーシェン様は私と同じ考えをしているのか特にそういった様子は見られなかった。
砂を踏む音と共に講師の先生が入ってきた。一昔前の軍服、胸につけられた複数の紋章、美しい白髪に王室出身の証である紫の瞳。かつては王国一の美女とも言われた美貌は未だ衰えず月日と共に刻まれた皺は彼女の魅力をより引き出していた。
「今回講師を務めるアレッシア・キーニャだ。よろしく頼む。」
「やっぱりお婆様じゃん!」
私は思わず大きな声で叫んでしまった。
その時だった。私の背筋に冷たい何かが走った。反射的に後ろを振り向く。クラスメイト以外誰もいない。冷や汗が垂れる。これは一体?嫌な予感がする。この授業少し警戒した方がいいかもしれない。そう思いながら私は自身の杖を強く握りしめた




