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第三話 命短しどうする乙女

「お母様が死んだ?」

 私とお兄様が寄り添っているのを発見したメイドは私たちを起こしながら「エリーザ様がお亡くなりになりました。」と言った。

 「嘘だ。だって、私お星様にお祈りしたの。みんな無事で会えますようにって。」

 「多分嘘じゃないよエレナ。お母様の部屋に行こう。」

 お兄様に手を引かれ私たちは書庫から出た。すぐ隣にあるお母様の部屋に入ると、朝日が差し込み、室内は明るいはずなのに室内の空気は重いものだった。

 お母様が横になっているベッドの側にはお父様がいた。生まれたはずの赤ちゃんの姿はどこにも見えなかった。

 「お父様・・・。」

 控えめにお父様に近づくとお父様はゆっくりと振り向き、私とお兄様を強く、強く抱きしめた。

 「全く、お前たちまでどこかに消えてしまったのではないかと心配したよ。」

 「ごめんなさい。でも、お母様が心配で。」

 「大人たちが僕らを除け者にするからこうなるんだ。」

 そう強がったように言うお兄様の声音は少し震えていた。

 「ねえ、お母様は?」

 私がそういうとお父様は私とお兄様をお母様の近くへと行くように促した。

 「お母様!私よ、エレナよ!」

 いつものように手を握ると、その手は冷たく氷のようだった。いつもの暖かな温度はそこにはなく、私の手のひらのぬくもりを奪うかのようにどんどん熱が奪われていく。

 「・・・冷たい。」

 「死んでしまったからね。」

 「本当に?本当に死んでしまったの?」

 「あぁ。」

 短い返事の中に全てが詰まっていた。その時、お母様が死んでしまった

ということを初めて自覚した。涙が溢れてとあらない。もう二度とあの優しい歌も暖かな手で撫でられることも本を読んでくれることもない。もう、お母様はいないのだから。

 朝日に照らされたお母様はまるで眠っているようで、美しい薄緑の髪も真っ白な肌も全てがいつも通りで、急に目を開けて「びっくりした?」とお茶目に笑いそうなのに、そんな夢物語が起こらないことを冷たい体温が示していた。

 隣を見るとお兄様も泣いていた。お父様もよく見ると目元が赤く泣いた跡がある。

 お兄様は服の袖で乱雑に涙を拭き取るとお父様に向き直る。

 「僕たちの新しい兄弟はどうなったの?」

 「無事だよ。今は別の部屋でメイドたちが面倒を見てくれている。驚くなよ。お前たちには妹と弟両方できたんだ。」

 「双子っていうこと?」

 「そうだ。あとで一緒に会いに行こう。まずは二人とも寝巻きから着替えて顔を洗って朝ごはんを食べてきなさい。それが全部終わったらお父様の書斎に来てくれ。」

 「わかった。行こう、エレナ。」

 私の返事も聞かずにお兄様は手を引き、お母様の部屋から出た。そして私の部屋まで着くと「んじゃ、朝ごはん食べた後にまた会おう。」と言い、自分の部屋へと戻ってしまった。私は自室に一人残されてしまった。メイドを呼ぶ気力もなく、でも怒りが湧いてきて私は窓を開け放ち大きく息を吸った。

 「神様のばかー!昨日いっぱい、いっぱいお祈りしたのに!私の本当に叶えてほしいお願いなんて叶えてくれないなんてばかー!」

 泣きながら叫び終わると少しだけ胸の辺りがスッキリした。後ろを振り向き、ベッドで横になっているビヤンコに声をかける。

「本当は赤ちゃんもお母様も死ぬはずだったんでしょ?」

 私がそう問いかけるとビヤンコ基グローリーはあくびを一つして答えた。

 「そうだ。さすが我が娘の魂を持つだけあるな。すぐに見破ったか。」

 「お母様が赤ちゃんの命を優先したんでしょ。」

 「そうだ。我は問いかけたこのままでは両方死んでしまう、どちらか選ばなえればいけないとな。エリーザは迷わず子供を選んだ。」

 「そう。・・・それがお母様の選択ならなにも言えないわ。それにしても動詞絵助けようと思ったの?」

 「何、簡単な話だ。お前の家族だからだよエレナ。我が娘の魂をもつお前の家族は我の家族といっても過言ではない。だから助けたのだ。」

 「そう。色々とありがとうグローリー様。棚を動かしてくれたのもあなたでしょう?」

 「そうだ。さて、力を使いすぎたから我は少し眠るぞ。」

 そう言うなりビヤンコはベッドに丸まり寝息をたて始めた。

 (お母様が決めたことなら何も言えない。

でも、さよならも言えなかった。)

 窓の外は綺麗な青空が広がっている。私はお父様の言いつけを守るために呼び鈴を鳴らした。


 三日後、お母様のお葬式が行われることになった私たちは黒い服に目を包み、真っ白な薔薇が咲き誇る我が家自慢の庭園へお母様の棺を運んだ。

 中心には墓石と深い穴が掘られており、神殿からやってきた司祭の人がん兄かを言っている。この人物がやけに胡散臭いと感じるのは私だけだろうか。

 司祭の言葉が終わるとお母様の棺の蓋は閉じられ、穴の中へと入れられた。そしてお父様と使用人数名が土を被せ、みんなでお祈りをした。どうか、安らかに眠れますように、と。

 その晩、家族だけで晩餐が行われた。普段あまり会わない顔が勢揃いだ。

 中でも気になったのは他の人よりも随分と安っぽいような喪服を身につけた初老の男だ。私はお父様にそっと耳打ちをする。

 「お父様、あそこにいる初老の男性は誰?」

 私が聞くなりお父様は「あぁ!」と大きな声を出し、その男性をこちらへと呼んだ。

 「この度は素晴らしい葬儀を行ってくださりありがとうございます。・・・こっそりナボトゥ式の儀式も散り入れていたでしょう。我が一族への心遣いありがとうございます。」

 男性はこちらに来るなり、お父様に深く頭を下げて言った。

 「そんな、頭を上げてください。お義父様。」

 「お義父様?」

 「エレナは赤ちゃんの時に会った以来だからね。この方はお前のお母様のお父様、つまりお爺様だよ。」

 「久しぶりだねぇ、エレナ。元気に育っているよで何よりだ。」

 そうニコニコと笑うお爺様は確かにお母様やソフィア叔母様と似ている面があった。綺麗な薄緑色の瞳や笑った時の顔、確かにこの人は私のお爺様なのだ。

 「あ、エレナばっかりずるい!久しぶりお爺様!」

 「おぉ、サミュエル。お前も随分大きくなったな。・・・そうだ、二人とも未来占いをしてあげようか?」

 「未来占い?」

 私とお兄様が同時に声を上げると気づいたら側にいたソフィア叔母様が補足をしてくれた。

 「父さんは人の手のひらを見るだけでなんとなくの未来を占うことができるの。せっかくだし二人ともやってもらったら?」

 「未来を見ることができるの⁉︎すごい!」

 「お爺様、やってやって!」

 私たちが興奮しながら手のひらを差し出すとお爺様は嬉しそうに笑う。

 「どれ、順番こじゃ。まずはサミュエルから。」

 お爺様はお兄様の手を取ると目を瞑り、何かを唱える。そしてすぐに目を開け、口を開いた。

 「少し言いづらいがお前は怠惰な面があるな。そのことで少し後悔することもあるだろが、遠い未来サミュエルが立派な領主として指揮している姿が見えた。」

 「まぁ、僕優秀だからね。この間も家庭教師に褒められたんだ。」

 「あまり才能にあぐらをかくでないぞ。さて、次はエレナの番だな。」

 そう言いながらお爺様は私の手を取った。先ほどと同じように何かを呟いているが、その表情はなぜか険しい。私の手を離すとお爺様は口を開いた。

 「・・・見えない。」

 「え?」

 「エレナの未来が見えぬのじゃ。見ようとすると灰色の雲がかかって何も見えなくなる。そして、二十くらいまで未来が進むと糸が切れたように何も見えなくなった。」

 「それって、私は二十歳で死んじゃうってこと?」

 「わからない。・・・いいかいエレナ。わしの言葉をよく聞き、覚えておくのじゃ。信頼できる友人を作る、そして強くなるのだ。誰にも負けないくらい強く。そうすれば運命は変わるかもしれない。」

 「信頼できる友達と強くなる・・・。」

「え、エレナは二十で死んでしまう⁉︎あぁ、なんてことだ。」

 崩れ落ちるようにその場に座り込むお父様とは裏腹にお兄様も含めみんなが冷静だった。

 「大丈夫、未来なんていくらでも変わるものだし。」

 「そうよ、未来は変えられるもの。自分の強い意思があれば何度でも変えられるの。だから悲観しないで。」

 「私、悲しくなんてないよ。大丈夫!」

 そうは言っても内心はとても不安だった。一体、どうすれば私の未来は変えられるのだろう。

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