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第三十五話 お誘い

 無事にテストを乗り切り、平和な日常が戻ってきた。放課後に毎日のように行われていた勉強会も終わりを告げ、今はおしゃべりの場と化している。サーラとアイリスと一緒におしゃべりをしながら美味しい紅茶を飲み、美味しいお菓子を食べる。幸せな時間だ。

 「私、エレナのお兄様が羨ましいですわ!」

 「急にどうしたのサーラ。」

 急な羨ましい発言に困惑しているとサーラは兄である王子殿下の口をこぼし始めた。

 「お兄様は周囲から振動だの完璧だのもてはやされていますけど実際は約束の時間には遅れるし予定を忘れるのは当たり前!先日も久しぶりに家族揃って晩餐ができるというのに二十分も遅刻してきたんですのよ!」

 「確かにうちのお兄様はそういうのはないかな。あーでも昔はあったかも。小さい時に約束すっぽかすのは当たり前で意地悪な時期があった。」

 「私は兄弟がいないからなんとも言えないな。でもあんなに輝いて見える王子殿下が家族の前だと色々とルーズなのってちょっと意外かも。」

 「でも家族だからこそ本当の自分を前面に出してるんじゃない?」

 私たちはこんなことを話しながらお菓子をつまみ、紅茶を飲んでいた。ガールズトークに終わりが見えることはなく、いつもサーラの従者が迎えに来てやっと解散するというのが日常になっていた。

 「サーラ王女は僕が羨ましいんですか?」

 「まぁ、会話の盗み聞きなんて。ねぇ、エレナ。」

 「本当に。サーラいい?私のお兄様は時間にルーズとか約束を忘れるとかはないけどデリカシーがないの。」

 「本人の前でよく言うな。」

 「あ、いつものお二人だ。」

 三人で和気藹々と話していると数日に一度は現れるお兄様とエドお兄様のコンビが現れた。いつも特に用もないのに私たちの会話の邪魔をして非常に迷惑である。

 「お兄様?用がないのに毎回話しかけないで。私は今三人での時間を楽しんでいるの。」

 「まぁ、僕には用はないんだけどね。」

 そう言ってお兄様は隣に立つエドお兄様の方をチラリと見た。

 「エドお兄様は何か用事があるの?」

 「そりゃあって来たんだよ。」

 「いつもはないのに。」

 「ほら、この間デート・・・二人で出かける話しただろ。そのことを聞きに来たんだよ。ほら、日程とか何するとか・・・。」

 「私たちはお邪魔かしら。」

 「ふふ、そうみたいね。」

 そう言うとサーラとアイリスは同時に立ち上がった。

 「それじゃまた明日エレナ。ごきげんよう。」

 「また明日ね。」

 二人はそう言い残し中庭から出ていった。その場にはお兄様、私、エドお兄様が残される。

 「僕もお邪魔かな。」

 「そうだな。」

 「それじゃ先に寮に戻ってるよ。」

 そう言うとお兄様も中庭を去り、あっという間にエドお兄様と二人きりになってしまった。少し気まずい沈黙が流れる。先に口を開いたのはエドお兄様だった。

 「今度の休み空いてるか?」

 「空いてるよ。」

 「それじゃその日に一緒に出かけようぜ。エレナは何かしたいこととか見たいものとかあるか?」

 そう聞かれ私は考え込む。別に劇に興味はないし、ブティックを巡るというのは男にとっては退屈なものだろう。どうせなら二人一緒に楽しめるものが良い。そこで私は名案を思いついた。

 「エドお兄様のお屋敷にさ大きな池があるでしょう?」

 「あるな。それがどうしたんだ?」

 「そこで一緒にピクニックをするのはどう?お互い好きな本を持って行ってお菓子とかサンドウィッチとかつまみながら本を交換して読むの。」

 「それは楽しそうだな。今日中にお父様に池のほとりでピクニックしてもいいか聞いてみるよ。」

 「それじゃ今度の休みにエドお兄様のお屋敷に行けばいい?」

 「そうだな。忘れるなよ?」

 「私が約束を忘れたことある?それじゃ、楽しみにしてるね。」

 そう言いながら私は帰り支度を始める。エドお兄様はそれを止めることもなくただじっと見つめていた。

 「そんなに見られたら穴が空いちゃうよ。」

 私が笑いながら言うとエドお兄様は「すまん」と少し頬を赤ながら言った。それがなんだか面白くて私が笑うとエドお兄様から文句を言われる。そんなこんなで帰り支度を終わらせ、私は転移装置のある部屋まで向かおうとするとエドお兄様に声をかけられた。

 「転移室まで行くんだろ?おくってくよ。」

 「ふふ、ありがとう。」

 久しぶりに二人きりで話をしながら転移室まで向かった。二人きりで話すのは本当に久しぶりでなんだか昔に戻ったような、そんな気がした。あっという間に転移室まで着くとエドお兄様は最後まで見送ってくれた。

 後日、ピクニックの許可が降りたという話を聞いた私はメモ帳に『次の休みエドおお兄様とピクニック、エドお兄様のお屋敷』と書き、ノートに挟んだ。


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