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第三十三話 私って役立たず?

 無事に筆記試験も終わりを迎え次は魔法の実技試験が控えた今日この頃。立て続けにテストが行われることはなく、実技試験を行うまでに二週間ほどの猶予があった。

 筆記の面で大変お世話になった親友二人にせめて恩返しがしたいと思い、中庭へと向かう。すでに二人はいつもの席に座っていた。

 「ごめん、遅くなっちゃった。」

 「エレナはいつも遅いね。」

 「何かあったんですの?」

 「ほら、今度実技試験があるでしょ?だから魔法の特訓をいてほしいってクラスの人からお願いされちゃって・・・。まぁ、断ったんだけど。」

 実は先ほど教室をでる直前にクラスメイトに声をかけられた。なんでもどこから聞いたのか私は魔法が得意だという噂を聞いて指導をお願いしたいとのことだった。正直、クラスメイトとの交流も大切かなとも思ったがもしかしたらサーラとアイリスが助けを求めてくるかもしれないと思い、同じくらい魔法が得意なユーシェン様にバトンを渡してきた。きっと彼なら良い師になるだろう。

 「二人とも実技試験はどんな感じ?私はまぁ、自分で言っちゃうのもあれだけど余裕かな。」

 「まぁ、エレナはそうですわよね。昔から魔法については右に出るものはいませんもの。」

 「エレナ昔から魔法が得意なんだ。」

 「二人にはこの間の期末試験ですごくお世話になったから今度は私が教える番かなって思ってるんだけど二人とも魔法の腕前はどう?」

 ドキドキしながら聴くと二人は即答した。「普通にできる」と。

 「え、指導はいらないってこと?」

 「そうですわねぇ・・・上級の試験を受けるとなればエレナに指導をお願いしますが所詮一年生のテストですわ。家庭教師も今の私の腕前で十分だと言っておりましたの。」

 「私も同じかな。お父様から一年生の実技試験の実力は十分満たしてるから座学に励みなさいって言われた。」

 「そ、そんな・・・。」

 「そうきを落とさないでくださいまし。今から実技場で魔法の訓練をしませんこと?」

 「それいいアイデアかも。」

 「サーラがそんなこと言うなんて珍しいね。いいね、行こう!」

 こうして私たち三人は実技場の使用許可をとり、魔法実技の服装に着替えて練習をすることにした。

 各々が杖を出し、皆が私の杖の大きさに驚く中で練習は始まった。

 実技試験で見られる要素は魔法のコントロールを正常に行えているかどうか。これしかない。各自得意な魔法、火、水、地、緑、のどれかを用いて的に魔法を当てる。的には点数が書かれておりあたった場所の点数がそのまま実技の点数になるというシンプルなテストだ。

 学年が上がり、エドお兄様や王子殿下が進んだ赤のコースに進級すると実技試験に対人戦も入ってくるらしい。しかし一年生のひよっこ軍団に対人戦は必要ないため的に魔法を当てるというシンプルな方法が取られている。まるでダーツのようだなと思った。

 「みんなはどの魔法で試験に挑むの?」

 「私は水ですわ。」

 「私は緑かな。そう言うエレナはどの魔法を使うの?」

 「私?実は迷ってるんだよね〜。」

 私は魔法が得意だ。どの魔法でも正直一位になれる自信がある。だからこそ問題なのはどの魔法属性で試験に挑むかと言うものだ。贅沢な悩みだとお兄様には言われたが事実、全属性に適性があるため仕方がない。

 「迷ってる?エレナは得意な魔法属性はないの?」

 「違いますわアイリス。エレナは全ての魔法属性の適性があるからこそ迷っていますの。」

 「え、全属性の適性があるの⁉︎」

 「全く、末恐ろしいですわ。」

 サーラが呆れたように言う。アイリスはウサギのようなつぶらな瞳を大きく見開いてしばらく硬直していた。

 「そんな人類が存在するなんて。」

 「私のおすすめは水ですわ。あなたは水の精霊ウンディーネと契約をしていることをお忘れで?毎回私の元に来てはエレナは来ないのかとうるさいのですのよ?」

 「ウンディーネ様と契約⁉︎だめだ、頭が追いつかない・・・。私の友達ってもしかしてすごすぎる人達しかいなかった?」

 「凄すぎるのは王女のサーラだけだからね⁉︎でも確かに水はありかも。その案採用!それじゃ早速トレーニングしようか。」

 私がそう言うと背後から「おーい」という聞きなれた声が聞こえた。後ろを振り向くと同じように魔法実技ようの服に着替えたお兄様とエドお兄様がこちらに向かってきていた。

 「エレナたちも実技の練習をしに来たのか?」

 エドお兄様が立派な燃える炎のような杖を持ちながらこちらにやってきた。なんだか学園に入学してからエドお兄様が話しかけてくる回数がかなり増えた気がする。

 「そうだよ。エドお兄様たちも?」

 「まぁ、そう言うことだ。サミュエルにはないが俺は対人戦が試験に組み込まれているからな。練習に付き合ってもらおうと思って引っ張ってきたんだよ。」

 後ろの方で空な顔をしたお兄様が立っている。お兄様は私と違って頭脳派だ。だから実技はあまり得意ではないはず。気乗りしないのも無理はない。仕方がない、ここは妹として兄のために人肌脱ぎますか。

 「その対人戦の練習相手、私じゃダメ?」

 「エレナに務まるのか?」

 「安心しろエド。エレナの魔法の腕前はうちのお婆様のお墨付きだ。」

 「それならいい相手かもしれないな。ボコボコにされても泣くなよ?」

 「上等。かかってきなさいよ。」

 そうして戦う気満々でエドお兄様とその場から距離を取ろうとすると大きな声で「ストーップ!」と言う声が聞こえた。

 「エレナ、あなたが魔法に長けていることは知っていますがこれはやり過ぎでは?こちらで私たちと練習をしましょう。」

 「そうだよエレナ。危ない。」

 サーラとアイリスの心配はごもっともだ。しかし、私の実力を見誤ってもらっては困る。それに四大公爵家の後継と戦える機会なんてそうそうない。血が騒ぎ、全身が燃えるように暑くなる。

 「すみません、王女殿下、アイリスさん。もう遅いです。」

 そんな言葉が後ろから聞こえたが無視だ。私は無駄に大きい杖を構える。

 「ルールは?」

 「膝ついた方が負け。」

 「シンプルでいいね。私好み。」

 ヒューと風が吹いた。それを合図にして私とエドお兄様は互いに魔法を出し合う。エドお兄様は火の魔法を得意とするだけあり、その火力は凄まじい。しかし、こちらも負けてはいられない。

 私は地の魔法で壁を作り、一時的な防波堤を作る。風の魔法で足にブーストをかけ、壁を登っていく。あぁ、楽しい。これは私の感情なのか、私の魂の感情なのかわからない。全力で挑んでもいいなんてこんなにも楽しいことなんだ。

 私は高所から飛び降り、一気にエドお兄様と距離を積める。エドお兄様は緑の魔法で蔦を生やし、それを燃やすことで距離をとろうとしたがもう遅い。私の勝ちだ。

 燃え盛る炎の中を水魔法で全身をコーティングしながら突き進む。目の前にはエドお兄様がいた。

 その首、もらった。

 私は緑の魔法で蔦を生やしエドお兄様を拘束師、無理やり膝をつかせる。私の勝ちだ。

 「私の勝ちだね。」

 「お前、強すぎるだろ・・・。」

 エドお兄様の情けない声が実技場に静かに響き渡る。

 その後、実技場をめちゃくちゃにしたと言うことで先生がやってきて私とエドお兄様はこっぴどく叱られた。その後、実技場を魔法を使って綺麗にするようにと言われたため私が一瞬で綺麗にすると教師は口をあんぐりと開けたままどこかへと去っていった。

 サーラとアイリスは興奮した様子で私を褒めてくれて照れながら実技場を後にした。


 「お前の妹やばいよ。」

 つい先ほどエレナに勝負を挑んで負けた親友が座り込みながらそういった。

 「実技場の清掃までしてくれた負け惜しみか?」

 「そうかもな。」

 そう言うとエドは地面に寝っ転がった。空を見ながらポツポツと話し始める。

 「俺、エレナに相応しいと思う?」

 「それを決めるのは僕じゃなくてエレナだ。」

 「俺、自信無くしちまったよ。これでも赤のクラス内では実技上位なんだけどな。さすがは王国の獅子と呼ばれたアレッシア様の孫娘だな。」

 「そうだな。」

 遠く、遠くを見つめる。幼かったあの日。こっそり覗いた部屋から聞こえてきた龍神の生まれ変わりという言葉と死ぬかもしれないという言葉。しかし、j奇跡が起こって僕の妹は今日も隣に立っていてくれる。

 高熱で苦しんでいたエレナ、メリッサとトマスが生まれた日に共に夜を明かした幼かったエレナ。

 龍神の生まれ変わりということは我が家の極秘事項だ。きっと、お父様も僕がエレナは龍神の生まれ変わりであることを知っていることは知らないだろう。

 今日の戦い、まるでエレナは龍神のようだった。

 (エレナのこれ以上の成長が楽しみだな)

 「おい、聞いてんのかサミュエル?」

 親友の言葉でハッと我に帰る。

 「聞いてるさもちろん。さぁ、もう日も暮れてきたし寮に戻ろう。」

 「そうするかー。にしても悔しいな。」

 惚れた女に負けるのは悔しくて仕方がないとずっと言っているエドの言葉を聞き流しながら僕たちは寮へと戻った。



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