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第三十一話 学園案内

翌朝、前日と同じように支度をして転移装置を使って学園へと向かった。当然のようにユーシェン様も一緒だ。一緒にいると目立つから昨日よりも早い時間帯に転移装置に向かったのに彼はすでにいた。そして当然のように一緒に通学をする。一日目ならまだしも二日目となると私の心情的にキツい。異国の皇子と一緒に毎朝通学する辺境伯令嬢というのはいかがなものか。

 教室に着くまでにユーシェン様は様々なことを話してくれる。時には勉強になるが今日は聞いている余裕もない。申し訳ないが適応に「へー」とか「そうなんだ」と相槌をして誤魔化した。

 教室に着くとやはり視線は私たちの方に向く。当然だ。

 ユーシェン様は早くもクラスの人気者となっていた。人気者というよりかは皇族との縁を作っておきたいという下心が丸見えな感じだが終始私にくっついてくるユーシェン様が唯一離れる時間のため放置している。カバンから自宅から持ってきた本を開き、朝のホームルームが始まるまで読むことにした。

 本を読んでいるとバルド先生がやってきた。皆が自然と席につく。私の視線はアイリスさんに向いていた。やはり急すぎただろうかと昨日のことを思い出す。

 「みんなおはよう。今日は欠席者はいないようだな。早速だが今日の予定を話す。」

 そう言うとバルド先生は黒板にデカデカと『学園案内』と書いた。それ、黒板に書く必要性ある?

 「今日はこの学園を案内する。王立学園はとても広い。昼休憩を挟んで一日かかることになる。時間は有限だ。早速案内を始めるからみんな廊下に出るように。」

 バルド先生は言うだけ言って廊下へと出ていってしまった。みんな慌てて廊下へと出ていく。私たちは少し待ってから同じく廊下に出ていった。

 廊下に出るとまず目に入ったのは伯爵子息に催眠魔法を使おうとしているリーシャの姿だった。なぜそこまで男にこだわるのか疑問だがその魔法は学園内では使えない。軽くあしらわれ、恨めしそうに伯爵子息の背中を見つめていた。

 「リーシャ嬢はすごいな。ああいう女性をなんて言うんだったか。」

 「男好き?」

 「それだ。うちの国にもああいう女性はたくさんいたよ。どこにいてもいるもんだな。」

 リーシャさんのことを感心するように言う。私たちはありの行列のようにゾロゾロと学園内を歩いた。

 まず案内されたのは食堂だった。昼休憩を挟むという話だったから最初に案内したのだろう。

 「ここが食堂だ。ビュッフェ形式で金銭を払う必要はなく、誰でも利用できる。昼時は混むから早めに席を確保することをお勧めする。それじゃ次にいくぞ。」

 そう言うとバルド先生は移動を始めた。私たちはそれを追いかける。

 「ここが図書館」

 「ここが薬学実験室」

 「ここが魔法地理学室」

 バルド先生の案内スピードが早い。みんなついていくので精一杯だった。保健室を案内された頃、鐘が鳴った。

「もう昼飯の時間か。昼休憩のためここで一時解散とする。昼食を食べ終わったら教室に集合してくれ。」

 簡潔に説明を終えるとバルド先生はその場から去っていった。残される生徒たち、せめて食堂までは連れて行って欲しかった。皆がそう思っていおるようで「ここどこ?」「食堂ってどこだっけ?」という不安の声が聞こえる。そこで堂々と先陣を切ったのはユーシェン様だった。

 「みんな、食堂はこっちだ。」

 ついてこいと言わんばかりの言葉に不思議と安心感がある。この人についていけば安心だなというものだ。

 ユーシェン様を先頭に食堂に無事についた私たちは昼食にありつけることができた。バルド先生が言っていた通り食堂にはたくさんの人で溢れている。

 「おーい、エレナー。」

 聞き馴染みのある声がして辺りを見渡すと薄緑色の頭が見えた。お兄様だ。

 「お兄様!お兄様も昼食を食べにきたの?」

 「そうだよ。よかったら一緒に食べる?エドもいるしさっきそこでサーラ様も捕まえたんだ。」

 「捕まえたとはなんですの。でもまぁ、エレナと昼食をともにできることは嬉しいですわ。」

 「サーラだぁ!」

私はサーラに会えたのが嬉しくて思わず抱きついてしまった。つい、いつもの癖で抱きついてしまったが昼時の人が多い食堂では目立つ。

 「ちょっと、エレナ人がいるわ。」

 「ごめん、サーラに会えたのがうれしくて。」

 久しぶりにサーに会えた私は彼女の手をにぎにぎしたりする。

 「もう、エレナじゃなかったら不敬罪で捕まえていますわ。」

 サーラも満更ではないらしい。そこにユーシェン様がやってくる。

 「おや、勢揃いじゃないか。」

 「ユーシェン様。よかったら僕たちと一緒に昼食を食べませんか?席はもう確保しているんです。」

 「そいつはありがたい。ご一緒させてもらおう。」

 みんなで歓談しながらの昼食は楽しくてあっという間に時間が過ぎていく。このままサーラとともに時間を過ごしたかったがお昼休みが終わるまであと五分しかなかった。私たちはそれぞれの教室へと戻り、午後も同じようにバルド先生の学園案内を受けた。

 「ここが実技場」

 「ここが魔法実験室」

 「ここは生物室だ。」

 あっという間に学園内の重要施設の案内が終わったらしくバルド先生を先頭にして教室へと戻った。

 「学園案内は以上だ。そして、今日の予定もこれで終わりだ。明日から本格的な授業が始まる。みんな忘れ物などしないようにそれじゃまた明日。」

 簡潔に帰りのホームルームを終わらせてバルド先生は教室から出て行った。あまりの速さにクラス中が呆気にとられている。とりあえず帰りの支度をしようか、という感じになりみんながいそいそと支度を始めた。

 帰り支度を終え、席を立つと声をかけられた。

 「エレナさん、少しよろしいかしら?」

 振り向くとそこにはアイリスさんが立っていた。相変わらずうさぎのように可愛らしい見た目をしている。

 「もちろん。どうしたの?」

 「昨日のお友達のことでお話がしたくて。」

 どきりと胸が鳴った。

 「エレナさんさえ良ければ私とお友達になってくださらない?」

 「もちろん!」

 私はカバンを投げ出し、嬉しさで思わずアイリスさんに抱きついてしまった。

 「やったー!ありがとうアイリスさん!」

 「私こそありがとうです。機会を作ってくれて。」

 「お友達になったらならさん付けで呼ばなくていいよ。私もアイリスって呼んでもいい?」

 「そんな、私ごときがエレナさんを呼び捨てだなんて・・・。でも、お友達はそう呼び合うもの。エレナ、これからよろしくお願いしますわ。」

 「こちらこそよろしく!」

 やった!アイリスさんとお友達になれた!嬉しい!とアイリスの手を握りくるくると回っていると後ろから蔑むような笑い声が聞こえてきた。

 「エレナさんはお友達を選びませんのね。自分よりも下の伯爵令嬢とお友達になるなんて私には考えられませんわ。それにアイリスさんったらまるで悪魔のような見た目。なんで私がこんな人と同じクラスなのかしら。」

 そこに立っていたのはリーシャさんだった。非常に腹が立つ。この学園内では基本的に階級の話はタブーだ。皆平等をモットーにしているから。それにアイリスの可愛らしい見た目をばかにされたのも腹が立つ。気づけばクラスのみんなが私たちの様子を見守っていた。

 「あまりこういう話はしたくないんだけど。この学園は皆平等が基本だよリーシャさん。だけどあなたが階級の話を出したから私も言わせてもらうね。」

 緊張で声が震えないように息を吸い込む。勇気づけるようにアイリスが手を握ってくれた。

 「たかが男爵令嬢が辺境伯令嬢の私の友好関係に口出ししないでくださる?それに他人の見た目をとぼすよりもまずは自分の行いを恥じてはどうなの?」

 「なんですって。」

「行こう、アイリス。こんなのと付き合ってる方が時間の無駄だよ。」

 私はカバンを持ち、アイリスの手を引いて教室をでた。心臓がまだバクバクしている。

 「アイリス、ごめん。不快な思いをさせちゃって。」

 「気にしないでください。それに、リーシャさんが言っていることは事実です。私の見た目は悪魔のようだと。」

 「そんなことない!」

 私はアイリスの手をしっかりと握りルビーのように輝く瞳をまっすぐ見ながら言った。

 「アイリス、あなたはとても美しい。白銀の髪はキラキラしていて綺麗だ史、ルビーみたいに真っ赤な瞳は本当に宝石みたい。それにふわふわ髪の毛はうさぎみたいで可愛いし・・・とにかく、あなたは決して醜くなんかないよ。」

 「そんなこと初めて言われた。」

 そう言いながら笑うアイリスの頬には一筋の涙が伝っていた。


 色々なことがありつつも私たちは転移室まで移動し、そこで別れた。家に着くとマーシャが出迎えてくれる。

 「おかえりなさいませエレナ様。」

 「ただいま、マーシャ。ねぇ、聞いてよ!」

 「なんでしょうか。」

 「お友達になりたいなーって思ってた子とお友達になれたの!すごく綺麗で可愛い子でね。本当に嬉しい!」

 「それは良かったですね。エレナ様が嬉しそうだと私もうれしくなります。さぁ、着替えの準備はできています。一旦、お部屋に戻りましょう。」

 「はーい。」

 アイリスと友達になれた。不快なこともあったけど、何よりも嬉しい気持ちが勝る。今日は良い夢見れそうだな。そう思いながら私は自室へと向かった。

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