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第二十八話 案内

 私とユーシェン様は移動魔法陣を使って学園へと向かった。お父様は後から来るらしい。学園についてすぐに目に入ったのはお兄様とエドお兄様の姿だった。

 「よおエレナ。制服にあってるな。」

 そう気さくに声をかけてきたのはエドお兄様だ。エドお兄様は制服をラフに着崩しており、厳格なロレンツォ様が怒らないのかが気になった。

 「エレナ、そしてユーシェン様。ご入学おめでとうございます。在学生を代表して僕たち何お二人を教室までご案内します。」

 そう言いながらお兄様はこちらへと言わんばかりに手招きする。私とユーシェン様は大人しくお兄様たちについて行った。

 「本当はユーシェン様のご案内は王子殿下がされる予定だったのですが妹の案内をすると言って聞かなくて・・・。僕たちがご案内することをお許しください。」

 「そういえばダヴィデ殿の妹君も入学するんだったな。同じ状況なら俺も弟を優先しただろう。気にするな。」

 「そう言っていただけてよかったです。お二人は一―A組です。ここの廊下の突き当たりを曲がってすぐ着きますよ。」

 そう言いながらお兄様は学園でのしきたりなどを簡単に説明していく。その間エドお兄様は何も喋らずただお兄様の後をくっついているようにしか見えなかった。

 「エド、お前エレナに何か言いたいことがあるんじゃないか?」

 教室までもう少しと言うところでお兄様は聞いた。図星だったらしくエドお兄様は気まずそうに頭を掻く。

 「いや、その・・・エレナ制服とても似合っているよ。この学園の誰よりもね。」

 「言いたかったことってそれだけ?」

 私がそういうと耳を真っ赤にしたエドお兄様が「そうだよ!」と勢いよく返事をした。キザなセリフを吐いた割にその後のリアクションで全てが台無しになっている。慣れないことはするもんじゃない。

 「エドアルド殿とエレナ嬢は随分と親しいな。親戚か何かか?」

 ユーシェン様がそう聞いてくる。確かに私たちの関係性は不思議に見えるだろう。四大公爵家の次期当主と辺境伯の令嬢が親しげに話している光景は滅多にない。

 「私の父とエドお兄様のお父様が学友なんです。そのせいか幼い頃からともに過ごす時間が多くて。」

 「そうだったのか。」

 私の返事に納得したらしいユーシェン様はどこか上機嫌そうだった。

あっという間に教室に着き、私たちは一旦別れた。すでに教室には人がいるらしく騒がしい。私とユーシェン様が一緒に教室に入ると視線が一気に集まった。

 「エレナ嬢、黒板に席が書いてあるようだ。」

 ユーシェン様に言われるがまま一緒に席順を確認する。

 「俺とエレナ嬢は隣の席みたいだな。これは頼もしい。俺は座学は苦手でな。」

 「全然頼もしくなんかないよ。私も座学は苦手だからね。二人で仲良く赤点取って補修!なんて未来もあるかもよ。」

 「それはまいったな!その時は大人しく補修を受けることにしよう。」

 二人で軽口を叩き合っていると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。そしてその相手は迷いなくユーシェン様の腕を掴んだ。その姿には見覚えがある。五年前のお茶会で私を殺そうとした男爵令嬢リーシャだ。

 「ユーシェン様、初めまして。私ヘルン男爵家令嬢のリーシャ・ヘルンですわ。ユーシェン様はかなりの美丈夫と聞いていましたがとてもハンサムでびっくり!是非ともリーシャと仲良くしてください♡」

 ユーシェン様の顔は真顔だ。こんなにも冷め切った顔初めて見る。ユーシェン様は力づくでリーシャの腕を払うと大きなため息を吐いた。

 「あいにく、俺はお前とは仲良くする気は毛頭ない。俺はお前のような奴が嫌いなんだ。エレナ嬢、嫌なものを見せてしまったな。席に座ろう。」

 「そうね。」

 私は済ました顔で言ったつもりだが内心は心臓がバクバクだった。なんの因果か自分を殺そうとした令嬢と同じクラスになるなんて・・・。もしかして命がいくつあっても足りない?

 好奇心で後ろをチラリと見ると憎悪の表情を浮かべたリーシャが黒板の前で立ち尽くしていた。怖すぎる。

 二人で席に着き、鞄を置くとユーシェン様はリーシャのことを睨みつけていた。

 「どうしたのユーシェン様。そんな怖い顔をして。」

 私がそういうとユーシェン様の顔はいつもの温和なものに戻った。にっこりと笑いながら「別になんでもないさ」と言われたが何かあるに違いない含みのある言い方だった。こっちも怖い。

 私の学園生活はどうなってしまうのか、あぁ心の癒しサーラが恋しい。なんでクラスが違うのだろう。そのことを恨みつつ、私とユーシェン様はクラスメイトに挨拶をしながら担任の先生が来るまで時間を潰した。

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