第二十三話 稽古
お婆様と魔法の稽古をする時間になった。私はドレスから動きやすい服装へと着替え、魔法専用の訓練場へと向かう。
座学から始まった訓練も気づけば実践のみになった。自分が成長したことを実感する。
最初は魔法学専属の家庭教師がいたがお婆様直々に私を指導したいと言ってくれて今に至る。一週間に三回、お婆様は海辺の別荘から移動鏡を使って我が家にやってくる。そして訓練が終わった後にはお婆様を含めた家族みんなで夕食を食べるというのが私が魔法の訓練がある日の流れだった。
訓練場に着くとすでにお婆様が背筋を伸ばし、立っていた。その姿は白銀の鹿のように美しい。若い頃は大層モテたらしく、なぜキーニャ家の冴えない奴となんかと結婚を⁉︎と周囲は驚いたらしい。皺も増え、かつては美しいプラチナブロンドだった髪も白髪に染まってしまったがその美しさは衰えない。威厳、親しみやすさ、美しさこの三つを兼ね備えている自慢のお婆様だ。
「エレナ、遅いじゃないか。」
「ごめん、少し準備に手間どちゃって。」
「まぁ、時間通りだからよしとしよう。さて、杖の準備はいいか?」
お婆様はそう言うと自身の杖を出す。どこからともなく現れたそれは相変わらず綺麗だ。私も同じように杖を出すとお婆様はにっこりと微笑んだ。
「さて、始めようか。」
その一言で訓練が始まる。私は他の人よりも魔力の量が多いため、学園に入学する前により複雑なコントロールの方法を身につける必要がある。学園入学まで一ヶ月もないという状況なので追い込み訓練だ。
「お前の場合大地の精霊と繋がることができる。それは前にも話したな?」
「うん。」
大地の精霊と繋がると言うのは自分が持つ魔力を使って自然そのものに干渉できると言うことだ。これは私がウンディーネ様と契約しているからなのだがその影響で風を操ったり、草木を茂らせたりなどさまざまなことができる。しかし、これは悪用厳禁なため、幼少の頃から厳しく襲えられている。
「今日は自然と繋がることでお前の魔力が暴走しないようにする訓練を行う。ずっと教えてやりたかったんだが文献が少なくてない。ようやく形にすることができた。」
「魔力の暴走って魔力熱のこと?それなら最近は落ちついたけど。」
「違う。魔力の暴走というのはお前や私のように一定以上の魔力を有したものがお地位いる可能性があるものだ。私は厳しい訓練でそれが起きないようコントロールするすべを身につけたがお前には精霊と繋がる力がある。もし、魔法での戦闘が発生した場合興奮して魔力が暴走してしまう。それを防ぐために精霊の力を借りるんだ。」
お婆様は私から一定の距離をとる。
「まずはいつもと同じよに模擬戦等を行う。いつも以上に厳しく行うからな。」
模擬戦等と聞いて思わず「うげ」という声が漏れてしまう。お婆様は実の孫に対しても容赦なく攻撃魔法を打ち込んでくる。しかも加減しているというが私には捌き切るのが精一杯で本当に加減をしているのかと毎回疑ってしまう。
「ほら、始めるぞ。」
「はーい。」
私もお婆様から距離をとり、杖を構える。どこかの草むらにいるビヤンコがニャーんと鳴いた。それを合図に戦闘が始まった。
相変わらず攻撃の速度が速く一撃も重い。それを防御魔法で防ぎつつ反撃を試みるも倍になって帰ってくる。攻撃を避けるために飛んだリ跳ねたり走ったり、私は忙しなく体を動かし、魔法を展開しているのに比べてお婆様はその場から一歩も動いていない。これがかつて竜と恐れられた人の実力なのだ。これでも加減しているというのだから恐ろしい。
お婆様の攻撃が急に止んだ。そのチャンスを逃さないように私は攻撃魔法を放つとお婆様は反射魔法を使って私に攻撃を返してきた。自分のはなった攻撃が頬を掠める。
「そろそろか。」
「そろそろって何が?」
「エレナ、気づいていないと思うがお前は今暴走する一歩手前にいる。」
そんな自覚一切なかったため驚いてしまう。
魔力が暴走すると命に関わるまで魔力を使い果たし、倒れるまでひたすら魔法を使い続けると聞いたことがある。私がその手前にいるなんて信じられなかった。
「ん?」
お婆様が首を傾げる。そして周囲をぐるっと囲むように植えられた草花の方へと駆け寄り、まじまじと見つめ始めた。何が起きたのかわからず、その場に立ち尽くす。
「私が教えるまでもなかったということか。」
お婆様はポツリといった。
「どういうこと?」
私がお婆様に近づくとお婆様は急に立ち上がり思い切りハグをしてきた。
「さすが私とエリアの孫娘だ!私が教えるまでもなく自然と精霊の力を借りて魔力暴走を防いでいたと は!皆自慢で可愛い孫だが魔法の才能についてはエレナの右に出るものはいないな!」
「お婆様!?」
「エレナ、これを見てみろ。ここの花壇はさっきまでこんなに草が生い茂っていたか?」
お婆様の熱烈なハグから解放され、花壇を見ると確かに草花がもさもさとしていた。先ほどまでは至って普通の花壇だったはずだ。
「さっきまでこんなに生い茂ってなかったのに。」
「これはエレナが無意識のうちに魔力を精霊に分散していた証だ。私が教えるまでもなく自然とやってのけるとは。私に似て天才のようだな。・・・今日の訓練でやることがなくなってしまった。この後の時間は一緒にお茶でも楽しもう。」
お婆様はそう言って屋敷の方へと戻ろうとする。戸惑いつつ、私はその後を追った。
その後、私とお婆様はお婆様が持ってきた特別なお菓子を食べつつ、和やかなお茶会を楽しんだ。




