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第一八話 あの行為の意味

 ツカツカと二人の革靴の音だけが廊下に響く。アンドレアとサミュエルの間に会話はなく、辺りは静寂に包まれていた。

 サミュエルが口を開く。

 「お父様も見た?」

 「何をだ。今日は多くのものを見たから具体的に説明してくれ。」

 「ユーシェン様がエレナの手の甲にキスをしたところだよ。あいつ、今日だけで二人の異性から手にキスをされてるんだよ。我が妹ながら恐ろしい。」

 「あぁ、それか。ちょうどあの行為の意味についてユーシェン様に聞きに行こうと思っていたのだよ。あとは今日の夕食会のこととかね。」

 「なるほど。」

 それだけ話すと二人は再び黙り込む。

 男性が未婚で婚約者もいない女性に対して手の甲にキスをするという行為には二つの意味がある。一つ目は家族愛を表すため。これは両親や兄弟からすることが多く、特に意味を持たないものだ。二つ目は相手に対して自分が好意を持っていますよと示すために行うもの。基本的に他人に対して好意があることを表すために行うことが大半で、今回ユーシェンとエドアルドがエレナに対して行ったキスもこちらに該当するだろう。

 エレナ自身がそれを嬉しく思っているようなら二人は特に何も言わないがされた本人の反応があまりにも良くないものだったためそれを問いただすべく、父と兄は皇子の部屋へと向かっていた。

 部屋に到着するとアンドレアが扉をノックする。

 「夜分遅くに申し訳ありません。アンドレアです。少しお聞きしたいことがあ流のですがよろしいでしょうか?」

 アンドレアの呼びかけにユーシェンの従者のリーハンが対応する。

 「これはこれはアンドレア殿とサミュエル殿ではございませんか。我が主君に確認をとりますので少々お待ちください。」

 そう言うと扉は閉まり、少しして再びリーハンが部屋から出てきた。

 「どうぞ、お入りください。」

 扉は開かれ、室内の様子があらわになる。元々用意していた家具や調度品に加えてユーシェンが普段使うであろうものも置かれており少し歪に見えた。

 「今日はありがとう。様々な方と交流ができた上美味しい料理まで。とても素晴らしい夕食会だった。」

 「そう言っていただき光栄でございます。・・・一つ、ユーシェン様にお聞きしたいことがあるのですが。」

 「なんだ?」

 「我が娘エレナに対しての行為についてです。あれにはどういった意味があるのでしょうか?過保護かと思われるかもしれませんが少し気になっておりまして。」

 「そうだな。隠す必要もあるまい。俺はエレナ嬢に惚れている。五年前のお茶会の時からずっと。」

 「そうだったのですね。しかし、我が娘には婚約者候補がおりますし何より我が家では身分に差がありすぎます。あぁ、申し訳ございません。これは私の独り言です。」

 「婚約者候補・・・あぁ、あのルバッフォ家の長男のことか。」

 「良くお分かりで。」

 「あの後に俺と同じ行為をしたらしいじゃないか。ライバルがいるとは思ってもいなかったよ。さて、俺はもう眠い。これ以上の話は明日以降にしてくれ。」

 「夜分遅くに押しかけてしまい申し訳ありませんでした。それではまた明日。おやすみなさいませ。」

 「おやすみなさいませユーシェン様。」

 半ば追い出される形で部屋を出た二人は執務室へと向かい、今日のことについて話す。

 「うちの娘がモテすぎてお父様しんどい・・・。」

 「お父様、精神を落ち着かせるハーブティーを持ってきたよ。でもまさかエレナに惚れていたのがエドだけじゃないなんて思わなかったよ。強力すぎるライバルの登場に今頃焦ってるだろうな〜。」

 「うちの、うちの可愛いエレナが・・・。公爵家の長男と友好国の皇子に好意を寄せられるなんて・・・。」

 ハーブティーを飲みながらアンドレはぶつぶつと呟いている。それを面白いなと思いつつ眺めるサミュエルの顔には笑みが浮かんでいた。

 夜は長い。今夜のお父様の娘たちを嫁にやりたくないトークは長くなりそうだなと思いながらサミュエルはハーブティーを口にした。

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