第十六話 頼れる親友
バルコニーの扉を開けるとそこには先客がいた。
風に靡く金糸のように美しい毛髪、この国では珍しい褐色の肌に王族がよく身につける白色のドレスがよく映える。私はバルコニーで休むこの国の第一王女であり親友でもあるサーラに声をかけた。
「サーラもここで休憩してたの?」
「あら人気者のエレナじゃない。てっきり面倒な紳士がここまでやってきたのかと思ったわ。」
そう言いながら微笑むサーラは年齢を重ねるごとにその美しさを開花させていた。つい数年前までは王族らしからぬ見た目とバカにしていた貴族達も今の彼女の姿を見れば何も言えなくなってしまった。
サーラは異国の出身である妃によく似ており、エキゾチックな美しさを持っている。細身の体と綺麗な褐色の肌。チョコレート色の瞳は穏やかでありながらも鋭く、まさに誰も触れることのできない高嶺の花と言っても過言ではない。
「ふふ、ユーシェン様との一幕は私も見ていたわ。彼ってかなり大胆なのね。お父様が彼はダメだなと言っていたわ。」
「サーラにも見られてたの・・・。すごく恥ずかしい。ていうか何がダメなの?」
ここには二人しかいないということもありお互い砕けた口調で話を進めていく。サーラと一緒にいる時間は何よりも心地がいい。
「お父様は私をユーシェン様の婚約者にしようとしていたのよ。でも、今日の様子を見てそれが難しいと感じたみたい。あんな熱烈なアピールを見せつけられたらこちらが申し出ても断られるに決まっているわ。それにユーシェン様は私のタイプじゃないしね。」
「あーなるほどね。確かに友好国に嫁ぐ例はよく聞くわ。・・・ユーシェン様はハンサムだけどサーラのタイプじゃないね。」
「えぇ、あんな筋肉が前面に出ているタイプよりも私はお兄様のように線が細く花が似合うような殿方が好みですもの。」
「それだとマレアーノ家のテオドーロ様とかぴったりじゃない?」
マレアーノ家はドラティーネ王国の四大貴族の中で青を司る家門だ。領地は海に面しており、水の魔法を得意とする人物が多い。
その中でも次期当主である長男のデオドーロ様は海のように青い髪と瞳をした人物で、サーラ好みの線が細く、白い花が似合うような儚い顔をしたイケメンだ。令嬢達の間でも人気があり、彼の話はたまに聞く。
「確かに彼はとても私好みですわね。家柄も申し分ないしお父様に相談してみるのも良いかもしれませんわね。それより、エレナは婚約者の話はどうなっていますの?あまり乗り気ではないように見えますわ。」
「今ルバッフォ家の長男のエドアルド様との婚約話が浮上してるの。ほら、うちってルバッフォ家と仲がいいでしょ?それで両親同士が盛り上がっちゃって。・・・私はそういうのまだいいのにな。」
「まぁ、確かに。あなたがエドお兄様と幼少の頃から慕っていた相手と婚約というのは抵抗があるのもわかるわ。」
「だよね。私、エドお兄様のことは家族だと思ってるから。それに私にはやるべきことがあるし。」
「前から言っているやるべきことってなんですの?親友の私にも教えてくれないだなんて。」
「この機会だからいいかも。・・・私、二十歳までに死ぬ可能性が高いんだって。しかも学園の中で何かに巻き込まれて。笑えないよね。自分の命がどこまで持つのかわからないのに婚約の話なんてできないよ。」
私が言うとサーラは持っていた扇子を床に落とした。
「もう、サーラったら扇子落としてるよ。」
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」
扇子を拾おうとするとサーラは急に大きな声を出し、私の肩を掴んだ。
「もう学園に入学するまで一ヶ月しかないじゃない!もっと早く言ってくれれば学園側に対して何か対策ができたかもしれないのに!」
「落ち着いてサーラ。」
「落ち着けるわけないじゃない!親友がヘラヘラと笑いながら自分が死ぬかもと言っているのよ!」
「ちゃんと死なないためのアドバイスもされてるから。一旦落ち着いて、深呼吸して。」
サーラは泣きながら私を抱きしめた。こんなにも感情的なサーラを見るのは初めてだ。確かにショックな話題だよなと思いつつも自分の態度ともっと早く言えば良かったと後悔した。
「それで?アドバイスって一体なんですの?」
少し落ち着いたらしいサーラが聞いてきた。
「信頼できる仲間を作り、強くなれ。」
「信頼できる仲間ならここにいますわ!私は何があってもエレナの味方だから、だから死なないでずっと親友でいて。」
バルコニーにはサーラが啜り泣く声だけが響く。星々の輝きも、月の明るさも全てが空虚に思えて、その気持ちを埋めるように私はサーラの背中を摩り続けた。
「安心して、絶対に死なないから。」
サーラに言い聞かせるように、自分に言い聞かせるように私は呟いた。私たちは夜空の下、しばらく抱き合っていた。




