第十五話 少し変わった関係性
お父様の挨拶回りにくっついていくと聞き慣れた声が私達の足を止めた。そこにはお父様の親友である現ルバッフォ公爵家当主のロレンツォさん一家がいた。
「ロレンツォ。来てくれて嬉しいよ。それに、ノエミも久しぶりだな。」
お父様はルバッフォ家当主夫人であるノエミさんと握手をする。
以前聞いたのだがこの三人は学友なようでロレンツォさんとお父様は学園内で交流を深め親友となり今もこうして家族ぐるみでの付き合いが続いているのだそう。
「にしてもお前にしては良くやった方じゃないか?パーティとか慣れてないだろう?」
「そのあたりはエレナの力を借りたんだ。エレナはサーラ王女と友人だからな。何かと相談をしてくれて本当に助かったよ。」
「少しは俺を頼ってくれても良かったんだぞ。そうだ、せっかくだし子供たちも呼んできていいかい?」
「もちろん。」
そう言うとロレンツォさんは三人の子供を連れて再び戻ってきた。
ルバッフォ家には現在三人の子供がおり、昔は良く一緒に遊んでいた。長女のレベッカお姉様は学園に入学してからあまり会えていなかったため、会うのは久しぶりだ。相変わらず美しい顔立ちをしている。
長男のエド兄様は変わらず。というか先日会ったばかりだ。婚約関係の話題でロレンツォさんと一度屋敷に来ている。私にその木は一切ないが親同士とエドお兄様本人が乗り気というのがなんとも言えない。
最後に次女のアガタちゃん。この子はレベッカとトマスと歳が近く、私にとってもう一人の妹のような存在だ。少し引っ込み思案なところがあるがそこも可愛らしい。
「やあエレナ。この間振りだね。」
ニコニコと笑いながらエドお兄様が近づいてくる。そういえば婚約の話が出てからエドお兄様の機嫌がいつも以上に良いように見えるのは気のせいだろうか。
「そうね。この間ぶり。」
みんなで近況を報告しあったりしているとレベッカお姉さまは「そういえば」と話を遮った。
「さっき凰皇国の皇子に手の甲にキスされてなかった?」
「え、見てたの?」
私がそう返事をすると少し呆れたようにため息を吐いた。
「あんな目立つ場所でされてたら誰の目にも止まるわよ。おかげで一部の令嬢がキャーキャー言ってたわ。まるで絵画のようだとか禁断の恋かしらとか。」
「絵画?禁断の恋?よしてよ。私、まだ恋とかそう言うのには興味ないし。何より毎日を生きるのに精一杯なんだから。」
「あら珍しい。エレナくらいの歳になれば皆色恋沙汰に夢中になるものよ。ふふ、エドはもう少し頑張らないといけないみたいね。」
そう優雅に笑うレベッカお姉さまを横目に私は考えを巡らす。そんな恋とか愛とかに現を抜かしている時間は私にはない。運命を覆せばそういうことに気持ちを向ける余裕ができるかもしれないが私は二十までに死ぬと言われているのだ。そんな余裕は今はない。
「エレナ、えっとその手を出して。」
「え、手?」
「いいから。」
エドお兄様に急に手を出せと言われたため手を差し出すとユーシェン様と同じようにエドお兄様は私の手の甲にキスをした。
「俺、婚約の話本気なんだよ。」
「そうなのね。」
「だから、エレナももっと真剣に考えてほしい俺のこと。兄としてじゃなくて一人の婚約者候補として。」
真剣な眼差しでそう言われてもなんて返事をすればいいかわからない。全部、全部わからない。なぜユーシェン様があんな行動をしたのか、どうしてエドお兄様はそれを真似たのか。いや、結論にはとうに出ているのかもしれない。でも、こんな自惚れた考え理解したくもない。今の私が生きていくのに、どうやって生き延びればいいか考えることで必死な私に、そんなこと考えるスキマなんて存在しない。
私が返事に困っていると誰かが私の肩に手をかけた。またユーシェン様だろうか。そう思いながら後ろを振り向くとそこにいたのはお兄様だった。
「エドそこまでにしといてよ。お前がうちの妹との婚約に乗り気なのはみんな知ってるんだからそんなに焦るなって。エレナも困ってるだろう?」
「すまない、軽率だった。一旦失礼する。」
そう言い残しエドお兄様はその場から離れた。それを見送った後、ロレンツォさんが深々と頭を下げる。
「エレナちゃんうちの愚息が申し訳ないことをした。いきなりあんなことされて驚いただろう。しかし、それだけあいつがエレナちゃんとの婚約に乗り気だと言うことも理解してほしい。本当に申し訳ない。」
「いえ、私は大丈夫です。少し驚いただけなので。ちょっと人酔いしてしまったので少し離れますね。」
返事なんて聞かず私はその場から逃げるように立ち去った。一度自室に戻りたかったがそうもいかない。大広間にいくつかあるバルコニーの中でも目立たない場所にあるところに向かって早足で向かった。
そういえば、ユーシェン様がキスしたところにエドお兄様もキスをしてきたけどあれは関節キスに入るのだろうか。そんなくだらないことを考えながら私はバルコニーの扉を開けた。




