第十二話 本当に皇子がやってきた!
黄色の光に包まれながら徐々に人影が見えてくる。今日は専属の侍従含め、数名がユーシェン様とやって来るらしい。
光が落ち着くとそこには黒曜石のように艶やかな光を放つ黒髪に炎を思わせる真っ赤な瞳をした人物、ユーシェン様と使用人たちが魔法陣の上に立っていた。
私たちは凰皇国式の挨拶をするためにその場に跪き、右手の手のひらはまっすぐ伸ばし、左手で拳を握り右手に押し当てる。これが凰皇国の挨拶らしい。
「あぁ、そんな跪かないでくれ。わがままを言ったのは俺だ。キーニャ家のみなさん顔をあげてほしい。」
わがままを言った自覚はあったんかいと内心思いつつ、立ち上がる。
「改めまして、俺は凰皇国第一皇子シュ・ユーシェンだ。こっちは侍従のチョウ・リーハン。あと後ろにいる者たちは皆今日中には帰ってもらう。」
「遠路はるばる我が領地に来てくださりありがとうございます、シュ・ユーシェン皇子。私はキーニャ辺境伯現当主のアンドレアと申します。こちらは私の子供達です。上から長男のサミュエル、長女のエレナ。次女のメリッサ、次男のトマスでございます。」
「皇子殿下にお会いできて光栄です。先ほど紹介に預かったサミュエルでございます。」
お兄様がそう挨拶をしたのでこれは私もする流れかと思い、口を開こうとするとそれよりも先にユーシェン様が口を開いた。
「君がエレナだろう?」
「はい、そうですが。」
なぜ名指しで聞かれたのかわからず困惑しているとユーシェン様はズンズンとこちらに向かってきて私の手を握った。
「ずっと君に会いたいと思っていたんだ!あの、五年前のお茶会を覚えているかい?令嬢を助ける為に自ら池に飛び込む様子を見てから君のことが頭から離れなかったんだ。」
「そ、そのような形で覚えていてくださり光栄です。」
なぜ毎年そこまで交流のない皇子から誕生日プレゼントが届くのかわからなかったが今やっと謎が解けた。相手が私にどういう感情を抱いているのか、それがわからないほど鈍くはない。
尊敬の気持ちか恋慕か、今の段階では判断が難しいがどちらにしても面倒臭いことこの上ない。
あのお茶会の時にいけに飛び込んだのだって自分の保身のためだ。別に勇気を持ってとか大層な気持ちを持って飛び込んだわけではない。だからこそ何かを勘違いしたままこれからうちで過ごすとなると面倒臭いという感情が勝ってしまう。色恋沙汰に目ざといメリッサあるこの状況を楽しんでいそうだが。
「さぁ、立ち話もここまでにしましょう。皇子殿下は荷解きもありますでしょうからうちのメイドに部屋まで案内させます。それでは、夕食の時に会えるのを楽しみにしていますよ。」
お父様はそう言うとメイドを呼び、ユーシェン様を案内するようお願いした。素直に従うか心配だったがユーシェン様は大人しくメイドに着いて行った。転移用の部屋からユーシェン様が出ていくと皆大きなため息をついた。
「緊張した〜。お父様何か変なところなかったかな?」
「僕が見る限り完璧だったよ。」
「私は生きた心地がしなかったかな。まさか手を握られるなんて思ってもなかったよ。」
「そうだ!全く、ほとんど初対面の相手の手を、しかも私の可愛い娘の手を握るなんて!」
お父様はプリプリという効果音がつきそうな様子で怒っている。その姿を見て皆は苦笑した。
「あれは間違いなく恋ですわ!まさかお姉様が五年前の時点で皇子のハートを射止めていたなんて!しかもこれからは一つ屋根の下の共同生活!楽しみですわ!」
「メリッサ、お姉さまの顔を見て。全然恋の予感って感じじゃないけど。」
「まぁね。」
「とりあえずお茶でも飲もうよ。甘いものも食べてさ。緊張を少しでもほぐしてあげよう?」
お兄様がそういうとテキパキと使用人たちに指示を出し始めた。さすが次期当主。
「上のサンルームにでも行こうか。」
お兄様のその一言で私たちは部屋を出てサンルームへと向かった。行く途中で皇子に出会わないか心配だったがそんなこともなく、私たちはサンルームでのんびりとティータイムを楽しんだ。




