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診察の結果(LINK:primeira desejo 65)

 東風クリニックの診察室。

 丸い椅子に座ったがんちゃんは、相対するハルに手首を掴まれている。


 二週間の療養を経て、経過を観察するためだ。

 当初の見込みでは、完治まで二週間程度とのことだったが、果たして。




「痛むか?」


 ハルさんががんちゃんの右手首を左手でつかみ支えるように固定して、右手でがんちゃんの右の手のひらをつかみ、ゆっくりと上下に動かした。


 我が事のように、いや、それ以上に緊張する。

 どうか治っていて。



「痛くは、ないです」



 少し俯いて言うがんちゃん。言い方に含みがある。



「なにか違和感は?」


「えと、そんなには……」


「がんちゃん、正直に言ってくれ」


「あ、あの……少し、引っ張られるような、引き攣るような、感じがあるような……」



 ハルは「そうか」と言い、沈黙した。何かを考え込むような表情だ。


「全然痛くはないんです」


 ハルが何かを言う前に、がんちゃんが言葉を重ねる。言い訳をするように。

 がんちゃんの表情には焦りの色が見えた。


「がんちゃん、イベントには出たいのは痛いほどわかる。だが、完治が条件だったはずだ」


「はい……」


 ハルがゆっくりと、言い含めるように伝えた言葉を、がんちゃんは少し俯いて、頷いた。これから紡がれるハルの言葉への、覚悟と恐れを混ぜたように。


 ハルは医者だ。

 今この場に於いてはがんちゃんは患者となる。

 医者の立場で患者に言えることは、わずかでも違和感があるのなら、大事をとってもらいたいと言うものだった。



 俯いたままのがんちゃんからは返事の言葉は出ない。

 がんちゃんの背中にそっと手を添えた。


 慰めや激励というよりも、側にいることを、ひとりではないのだということを感じて欲しかった。

 今。或いはこれから。がんちゃんはこの結果を受け、なんらかの乗り越えなくてはならないものと対峙する。

 その時、自分はひとりではないのだと、思ってもらいたかった。



 無言で俯いているがんちゃんに、ハルは語りかけた。

 大人として、未来ある若者に、その未来に影を差すようなリスクを取らせるわけにはいかないのだと。

 けれど、若者には大人の理屈を越える、犠牲を厭わずに挑むべき瞬間が訪れることがあることを理解しているとも。


 がんちゃんは顔を上げた。


 ハルはこう言ったのだ。


 他者にとっては取るに足らないことも、当事者にとっては大事である場合がある。

 その時点で、他者と当事者では優先順位の置き方は異なっていて当たり前で。

 当事者にとっての大事は、本人にしかわからないと。



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