心配してくれるみこととひいとほづみ
馳せていた想いがだんだんとサンバの文化や業界の活性化といった壮大なものになってしまったが、みことのような映えるダンサーを獲得できた奇跡は、裏を返せば何かひとつでも条件が異なっていたら、貴重な人材を得られなかったという結果が高確率で横たわっていたということだ。
それは、今この瞬間にも起こっているのかもしれない。
適した発信、適した周知さえできていれば、得られたであろう人材が、言い方を変えれば機会損失となってしまった人材が、得られた人材の水面下で数多存在しているのだ。
手を打つなら、早ければ早いほど良いのだろう。
「いのり?」
いけない。みことに語るだけ語らせておいて、考え込んでしまった。しかも難しい顔をしていた可能性がある。
「あ、ごめん。みことが『ソルエス』に入ったのって、すごく奇跡的だったんだなって思って。何かひとつでもずれていたら、みことは『ソルエス』には入っていなくて、だからみことがここにいる幸運を思う一方、いなかったかもしれないという可能性を考えたら怖くなっちゃって」
みことは、「考えすぎー」と笑っている。「そんな深刻にならなくても。今ある現実が、実現した現実なんだから良くない? でもわたしがいることが幸運とか、いなかったかもしれないと思うと怖いとか、大げさすぎて照れるわ」なんて言いながらも、少し嬉しそうにしてくれていて私も嬉しい。
みこととそのようなやり取りをしていたら、私に奇跡を齎した姉妹がやってきた。
「お疲れ様」
「こんばんはー」
ひいとほづみにみことはひらひらと手を振っている。私も「こんばんは」と声を掛けた。
姉妹とみことは年の近いダンサー同士、仲が良いようだ。
「なんの話―?」
ひいが尋ねる。
「運命と奇跡の話」
「大げさに言うー!」
私の答えにみことが笑いながら言い、ひいは「なになに?」と興味を示していた。が、少し表情を引き締めて、「がんちゃんはどう?」と訊いてきた。
「だいぶ良くなってきているよ。でもまだ安静にしてないとならない。今日も練習には来ていて、バテリアの練習場で真面目に練習の音聴いていたよ。今はみんなの休憩の隙をついて叩き方とか教えを受けているんじゃないかな」
合同練習が始まってしまえば練習しないとならないし、音も大きいから会場では会話はできない。ひいは「ちょっと話してくる」と、部屋を出て行った。
「完治すると良いね」
みことも少し心配そうな顔をして言った。がんこがイベントデビューを楽しみにしていたことも、出るには完治が条件であることも知っているのだ。
「いのり、手伝うから言ってね」
ほづみの優しい笑顔には姉力を感じる。さすが、ひいがべた懐きなだけはある。
「ありがとう、がんちゃん喜ぶよ」
がんちゃんにとって、姉に匹敵する存在は何人いたって良い。にーなもその内のひとりになりそうだし、他にも面倒見の良さそうな人は多いチームだ。がんちゃんがみんなに愛されるようになったら良いな。
などと思ったが、どうやらほづみが言いたかった意図は少し違っていたようだ。




