噂話
練習場に戻ろうとしたら、ロビーから話し声が聞こえてきた。
話しているのは『タンボリン』という棒のついた小型の太鼓の奏者のアイジと、ダンサーの女性。中学生くらいのダンサーたちと大笑いしながら踊っていたり、大人のダンサーとも、これまた大騒ぎしていたりと、なにかと賑やかなひとで印象によく残っている。
「やー、がんちゃんのおねーさん、キレーなひとだねぇ」
「せやなぁ」
ん? 私のこと?
ふたりがそこで話をしているということは、練習再開までもう少し時間はあるのだろう。
自分の話題というのは気になる。壁の陰で聞かせてもらうことにした。
「なにその気のない返事! カノジョに対してもそんな感じ? 明日フラれろ!」
「カノジョやったらちゃんと聴くわ。おまえカノジョちゃうし。どうせしょーもない雑談やろ?」
「ちがいますー! 最重要項目でんがな!」
ダンサーとバテリア、女性と男性だけど旧知の友人のような仲のように感じた。
確かアイジは仕事の仲間数名と『ソルエス』に所属していると言っていた気がする。
「ほう。なら聞こか。これでくだらなかったらしばき倒すぞ」
「こわ! ランちゃんがそんな粗暴だなんてショックやわあ
カノジョに暴力を振るったりしてないでしょーね!?」
アイジは本名が百合藍司だったはず。ランちゃんというのは藍から来てるのだろうか。サンバネーム以外の愛称で呼んでいることからも、『ソルエス』以外の場での知り合いだったのは間違いなさそうだ。
「するか! きしょい関西弁もやめーや
んで、なんやねん。全然話進まへん。もう練習始まんぞ?」
「まあ、おっしゃる通り全然大した話じゃないんだけどさ」
「なんやねんそれ!」
「でも、絶対聞いてほしくてー」
「もういいからはよ喋れ」
「あの子、いのりって、多分......」
何を言われるんだろう? 流石に緊張するな。
「わたしに匹敵する!」
「なんやねんそれ!」と、つっこみの被せを期待していたが、
「そりゃあおまえ、一大事やんけ」
と、よくわからない主張に乗っかる形をとっていた。透かしというやつだろうか。
「でしょ?」
「ああ、おまえクラスの事故人間がチームにふたりもおったら早晩『ソルエス』は崩壊してまうやろなぁ」
「誰が事故物件だ!
センスよセンス! センス側のわたしにはわかんの! あれぁとんでもねぇタマじゃわい」
よくわからない。悪口陰口の類ではなさそうだけど、表現が独特すぎて測りきれない。
これ以上は時間切れか。こういう時は正面突破の方が活路は開ける。
「お疲れ様です」
壁から顔を出し私の方から声をかけた。




