ほづみとひい
ミーティングのあとは、合同練習になる。
エンサイオとは本来、バテリアとダンサーが合同で行う練習を指す。
合同が始まるまで音響の調整やバテリアメンバーが打楽器を持ってダンサーの練習場に移動するなど、準備に少し時間が必要となることもあり、休憩を兼ねた空き時間となっていた。
私は借り物のスルドを持って移動した。先ほどの練習中でリズムを外すことはほとんどなかったので、合同練習時もスルドを叩かせてもらえることになった。
チカの隣にスルドをセッティングする。
開始までもうしばらく時間がありそうだった。
ダンサーのみんなも思い思いにドリンクを飲んだり、座って休んだり、おしゃべりしたりしている。中にはストレッチをしたり、壁面一面のミラーに向かって動きのチェックをしているストイックなダンサーもいる。
さて、まずは。
「改めて、よろしくお願いします」
おしゃべりをしていたふたりのダンサーに話しかけた。雰囲気のよく似たふたりだ。
「あ、こちらこそお願いします」
「お願いします! がんちゃんも姉妹で参加かぁ、なんか楽しくなりそう!」
がんちゃんが練習場を出て行ってしまった日。私は体験させてもらおうと最後まで残っていた。
その日もハルは体験者として紹介してくれた。
ダンサーの練習場にいたダンサーたちは事と次第を詳しくは把握しておらず、ハルはうまく大袈裟にならないように状況を伝えて紹介してくれた。
その時にも軽く会話することができた、がんちゃんの同級生のひいと、その姉のほづみだ。ほづみは私と同学年だ。
「これからは姉妹ともども仲良くしてね」
「こちらこそ!」
ひいは元気で明るい。がんこの良い友達だ。
「いのりちゃん」
「いのりで良いよ。私もほづみって呼んで良い?」
「もちろん! いのりはがんちゃんと仲良いんだね」
ほづみは嬉しそうに言った。
「いのりはがんちゃんと仲が良い」と言う言葉がすっと出てくるには条件がある。
自分たちは仲が良くない場合。「(私たちはそうではないけれど)いのり#は__・__#仲が良いんだね」と言う言い方になる。
これはこのふたりには当てはまらない。どう見ても姉妹仲は良さそうだ。
ほづみの表情も加味して考えると、仲が良いことを確認する意図であり、そのことが嬉しいのだと言うふうに捉えられる。
普通に考えれば同じ趣味を同じサークルで始めようと言うのだから、まあ仲は悪くはないのだろう。そして、一般的な姉妹の仲が悪くないことはさして珍しいことではない。敢えて確認するようなものでもないし、自身もそうであるのなら、姉妹仲が良いと言うことが殊更に嬉しがる要素になるものではない。
以上のことから、ほづみはきっとがんちゃんの屈折と、私たちの関係性を知っていたのだろう。
そして、おそらく良い家庭で姉妹仲良く真っ直ぐに育ってきたのであろうほづみとしては、妹の友だちの姉妹仲に懸念を持っていたのかもしれない。
面倒見の良いひとなんだろうな。
そう言えば、がんちゃんが夜に急に話しかけてくれたことがあった。
あの日がんちゃんは、友だちの家に遊びに行っていたはずだ。
その友だちというのは、きっと......。
私たちを仲が良いと評価し嬉しそうにしているほづみに答えた。
「うん。ありがとう!」
そのお礼は、評価してくれたことに対してのものと聞こえただろうか。
真意が伝わっているかどうかはどちらでも良かった。
がんちゃんのことを想ってくれたこと、その心をほぐしてくれたこと。
そのことへの感謝をどうしても口に出して言いたかっただけなのだから。




