がんちゃんの決意と私の覚悟(LINK:primeira desejo56.57)
がんちゃん。もう実態のないものに捉われないで。
「私も今日ね、あの後、スルドっていうの? がんちゃんがやってるのと同じ楽器体験させてもらったよ」
がんこの表情がきゅっと引き締まった。
がんちゃんが本当に戦うべきは、思い込みが作り上げた幻なんかじゃない。そんなものに、負けないで。
「がんちゃんが夢中になるの、よくわかっちゃった。大きな音が身体を抜けていくような感覚。自分も楽器の一部になって、音を放つような感覚が、音を出すたびに自分が更新されるみたいで気持ち良いね。
他の楽器じゃなかなか味わえないと思う」
掛け値なしの感想だ。
単調なリズムを叩いていただけなのに、無心になれた。
無心で叩いているうちに、二十年近い人生で私自身も気付いていない、心の裡に溜まっていた澱のようなものが、ほどけて剥がれて、空気に溶けていくように感じた。
がんこへの仕掛けがなかったとしても、やってみたいと思った。
「祷もやるの?」
声に、ほんの少しだけ震えた音が混ざっている。
がんこに壁を乗り越えてほしいと思うなら、私にもまた、覚悟が求められる。
「私が同じチームにいたら、がんちゃんは嫌?」
がんこは今日、今、この場。
逃げず隠れず、向かい合う場と決めたのだろう。
ならば、私は正面から立ちはだかり、受け止め、抱き締めるのだ。
私が目を背けてはいけない。
云うべき、訊くべき言葉は単純に、明快に。
それが仮に痛みを伴うものであったとしても。
「うん、嫌だなって思った」
明瞭な言葉にされた概念は、曖昧だったものに形を与えた。
形が明確になったそれはとても鋭利な姿をしていて、心に刺さる。
痛い。
そんな痛みさえも、昨日までの私だったら客観視でき、情報のひとつとして処理できたはずだ。
サンバで心かにこびりついていたものを剥がしてしまったら、柔な状態で剥き出しになってしまったのだろうか。
「それは、私が嫌いだから?」
言っていてつらい。
つらいが、ここは真っ直ぐ。
手練も手管も必要ない。仕掛けも作戦も今は邪魔だ。
私とがんこ。真っ向から向かい合って、単純な言葉と気持ちを交換するのだ。
その答えが肯定だったら、柔くなった今の私は立っていられるだろうか。
それでも構わない。逃げずにいるがんこに相対す私に、逃げの要素はあってはならない。
「祷のことは嫌いじゃないよ。いつも良くしてくれたし、想ってくれているのも感じてる。だから感謝してる。
家族の中で、わたしのこと想ってくれるの祷だけなのに。
それなのに態度悪くしててごめんなさい」
しかし、がんちゃんから出たのは望外の言葉。恩寵のような言葉を得て崩れ落ちそうだが、それは後に取っておく。
がんちゃんの言葉の本質は私へのお礼とお詫ではない。
それを真っ直ぐ伝えられるがんこになったと云うことだ。




