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おかえりがんちゃん(LINK:primeira desejo56.57)

 気配がした。



 練習を終えて帰宅した私は、お風呂と食事を済ませ、万全の体勢にて自室で待機していた。

 高まっていた集中力が、それを感じ取った。


 音など、具体的ななにかを知覚したわけではない。誰かが扉を開けると気圧が変わるとか、そういう知覚できない何かを感じるからだろうか。

 誰かが家に帰ってくると、なんとなくわかることがあった。



 キョウさんからは定期的に連絡が入っていた。

 海を出発するとき。途中で夜ごはんを食べていくとの記述もあった。

 街道付近のラーメン屋に立ち寄ったとき。店名には覚えがあった。距離的にはかなり近いところまできている。きっとキョウさんがご馳走してくれたのだろう。次に会えたときにはそのこともお礼を言わなくては。

 お店を出る時にも連絡があった。そこからならうちまでは二十分程度だろうか。


 時間的にももう帰ってきて良い頃だ。感じた気配は気のせいではないだろう。



 程なく階段を登る音が聞こえてきた。

 そして、足音は扉の前で止まる。一呼吸置いて、ノックの音がした。


「お姉ちゃん、わたし」


 扉が開けると、そこには少し緊張した面持ちのがんこが立っていた。


「おかえり、がんちゃん。中入る?」


 がんちゃんはこくりと頷いて、中に入ってきた。

 ソファを促すと、がんこはやや浅めに座り、横にあったクッションを抱えた。


 なにこのかわいさ。あざと女子が読むような雑誌でも読み込んだ?



 がんちゃんはいつになく真剣な表情だ。

 私も愉しんでばかりはいられない。

 話しやすい雰囲気は崩さないよう、微笑みは残したまま、がんちゃんをしっかりと見た。目には少しは真剣味が宿っただろうか。

 


「スルド、持って帰ってくれたんでしょ? ありがとう。あと、今日はごめんなさい」


 がんちゃんは話はじめはおずおずとしたものだったが、こちらを見つめる目線は外さず、言葉も最後は芯の強ささえ感じた。


 がんちゃんはきっと、今日確実に成長を遂げたのだ。

 キョウさんの導きによるものだとしたら、流石だ。



「がんちゃんは、『ソルエス』も、『ソルエス』のひとたちも、大好きなんだね」


 しっかりと地に足をつけ、顔を上げ、まっすぐ前を見て、逆風に立ち向かう。

 目の前の可愛く座っているがんちゃんから、そのような強さを感じられたことが嬉しくて思わず破顔してしまう。



「うん。みんな親切だし話しやすくて一緒にいて楽しい。スルドも気持ち良くて好き」


 好きなものを堂々と好きと言える。

 元々素直さはがんこの美点のひとつだったが、そこに自信が宿ったように感じた。


「そっか」


 本当に、良かった。がんちゃんに好きなものができて。


 これを、やがて手放す日は来るのかもしれない。

 でもそれは、自分の意思で、後悔のない選択であるべきだ。

 諦めや妥協や心に沿わない意固地や、誰かのせいや。

 そんな、先に後悔を伴う結果であってはならない。

 そのためには、大事なものを掴んだのなら離さない強さが。気持ちの強さが必要だ。



 がんちゃんは、それをここで示す必要がある。

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