狼狽えたり誤魔化したり (LINK:primeira desejo41)
私たちのやり取りを多少意識しながらも、各々自分の準備を進めていた他のメンバーの方たちも驚いた様子で、入り口のがんちゃんに注目していた。
「お母さん言ってたじゃない。
挨拶行かないとって。ついでがあったから私が代わりにきたの」
もちろん、嘘ではない。
ついではあったのだ。がんこの所属しているチームに挨拶のための手土産を買うついで、なのだから。
目的と手段の主従が入れ替わっているが、往々にしてそういうことはある。詭弁かもしれないけれど嘘ではない。
「なんでっ……ここが……」
なんでここが分かったのか? でしょ。
その質問は言えないよね。
保護者や保護者に相当する者が、練習場のことを知っているわけがないなんてニュアンスの質問をがんちゃんは口にできない。
チームのことを調べる過程で、入会方法や手続き書類のページがあった。
未成年者には保護者の承認が必要な申込書だった。
がんちゃんが母の承認を取っているわけはないが、それはこの前の母の反応から見ても明らかだ。
父も有り得ない。なかなか家にいない父に頼む機会をつくるのは難しく、仮に作れたとしても、もし父に頼んでいれば、その日の内に母に共有されていただろう。
父と母の関係性は悪くなく、父は娘たちの管理は母に一任していて、母もそれを良しとしていたのだから。
申込書に必要な要綱を埋められなかったがんちゃんは、偽造したのだろう。
自分で筆跡を変えて母か父の名前を書いたか、友だちに書いてもらったか。
契約というほど大ごとではないし、規約というほど大げさなものはないサークルだ。保護者記入欄を自分で記入するくらい糾弾されるほどの悪事とまでは言えない。
でも、まじめで真っ直ぐながんちゃんだから。
私文書偽造をハルさんに知られるわけにいかないとか思っているに違いない。
軽いとはいえ悪事は悪事。
少しお仕置きしてみようかな。
「お母さん、びっくりしてたもんねぇ。がんちゃんが楽器はじめたって知って」
微妙な言い方をした。
母に申込書の保護者記入欄を記載してもらっていたのなら、「はじめると知って」という時系列でなくてはならない。「はじめたと知って」という後追いは、申込書を入会前に記載している状況と矛盾するのだ。
まあこんな細かい部分、意識していなければ聞き逃すか聞き間違いか、言い間違いで終わるだろう。
意識がびんっびんになっているがんちゃんを除いて。
「あのっ、わたしっ、お、おかあさんとは話してて、えと、この前話して」
ぐっだぐだになってる!
「おかあさんが、楽器やるの良いって言ってくれてるから」
良いとは言ってないよね。まあ承認はされたようだけど。
但し、それは事後であって、申し込みの時に保護者の承認が得られていないこと、それを偽造したことは無かったことにならない。
その辺をごまかそうとしているのか、時系列について触れずに「承認が得られた」という事実で押し通そうとしている。健気!
でも、後ろ暗いのか罪悪感があるのか、目ってこんなに泳ぐの? ってくらい視線が定まらない。
ああ、たまんない……。
なかなかにレアながんちゃんを堪能させてもらった。
充分愉しませてもらったし、そろそろ助けてあげよう。
ハルさんやキョウさん、ヒトミさんに不信を抱かせるのも不本意だし、がんちゃんが、彼らから「不審に思われた」という思いを抱えて過ごさせて良いことなどない。
私はがんちゃんには健やかに過ごしてもらいたいのだ。
だからこそ、些細な罪には些細な罰も与えられ、懲りたり反省したりもしながら、賢く靭い大人になって欲しい。




