はじまり(LINK:primeira desejo 123)
ブラジルから来た労働者が集まる街で、在住のブラジル人に向けたブラジル人経営者のスーパーマーケット。
扱っている商品は本国のものが多く、遠い異国の地で故郷の料理を作りたいといったニーズに応える存在だ。
このイベントもまた、自国を懐かしむ労働者に向けたものだ。勿論、現地人たる近隣在住の日本人との交流を図る意図もある。
今この場は、文化的には限りなくブラジルに近いと言えた。
郷に入っては郷に従えだ。この場に於いてはブラジル文化やブラジル人には敬意を払い、できるだけポルトガル語で表現した方がふさわしいだろう。例えばブラジル人なら、「ブラジレイラ」と言うように。
既に見物客でにぎわっている駐車場の一角から、ひときわ大きな歓声が上がった。
派手な格好をした主催者が手を振りながら登場した。
歓声が静まるのも待たず、主催者はポルトガル語で開会のマイクパフォーマンスをする。取ってつけたように、日本語でも「たのしんでください!」と言い、主催者が捌けると同時に一組目の演者が登場し、そのまま演奏が始まる。観客は主催者が出てきた瞬間からずっと盛り上がりっぱなしだ。
日本のエスコーラが、日本の街のお祭りなどで行うパフォーマンスとは、趣が違う。
日本のサンバも、ブラジルのサンバも、未だ実際に見た経験はほとんどないが、醸し出す雰囲気からして異なっているように思えた。
私たちは『Samba de Arere』と『Vou fostejar』の二曲を披露することになっていた。
キョウさんが事前に話をつけてくれていたようで、歌とメロディはイベント参加者のユニットが引き受けてくれたらしい。さらに、フリーのカイシャ奏者も加わってくれるそうだ。
カイシャは小太鼓で高音を担当する。低音担当のスルドはプリメイラのがんこ、セグンダの私、テルセイラのキョウさん。ダンサーはほづみとひい。ちょっとしたパフォーマンス集団になっている。
ゲストとは今日が初対面で、当然合わせの練習などはしていない。それでも、全く問題ないそうだ。
始まる前に挨拶がてら軽く打合せもしたが、リズムの速度についての話があったくらいで、詳細についての話は一切なく、ほぼ「楽しもう!」みたいな内容の、打合せと言えるようなものではなかった。
ゲストたちがそれだけの実力者であることは疑う余地はないが、加えて、即興でやって良い、多少間違えても楽しければ良い、といった、このイベントの在り方が体現されているようだった。
そういうところも、日本のエスコーラがショーなどに挑む際の考え方とはだいぶ違う。
どちらもそれぞれ美点はあるが、本場の自由なノリと、それが許されるだけの実力を身に着けているという背景には、憧れと尊敬の念を抱いた。