メイクの森
ほづみにメイクのことを訊きたい私は率直な質問をした。
「チークの色いいね。どこの?」
「MiMCだよ」
「わー、オーガニックー。やっぱり良い?」
「あはは、素材感はあんまわかんない。これは色が気に入って。血色良く見えるから」
「うん、良いよね。高島屋で売ってたなぁ。見に行ってみようかな。やっぱデパコス良い?」
「高いのは高いなりに良いよね。でも、ロフトとかキャンメイクとかでも良いのあるし、モノによっては百均でも良かったりするよね。リピートならデパコスと同じのがアットコスメとかゾゾで安く買えることもあるよね。いのりはなにつかってる?」
「私はそんなに詳しくないから、BAに相談して提案してもらったの買うこと多いなぁ。シュウウエムラとかランコムが相性良い気がしてる」
「マダムの買い方! はー、羨ましい」
「いや、ほんとは自分で選びたいんだよ? 韓国系のとかさ」
「あー、良いよねー。安いのも多いし種類も多いし、評判良いのも多いし」
「そう! 多すぎるの! この前新大久保行ってさー」
「え? 良いなぁ!」
「そんなに大きくないお店なんだけど良さそうなのいっぱい売ってるところあって」
「今日のティントもそこで? 発色良いし似合ってる! オルチャンメイクじゃん」
「これはドラッグストアで買ったケイトのやつ。新大久保のお店は種類多すぎて何買ったら良いのかわからなくって、メイク系はやめといて、スキンケアのだけ買ったよー」
「えー、そんなに品揃え良いんだ? どこだろ? あそこコスメショップも多いもんね。メイクしてくれるとこ?」
「いや、販売だけ。路地裏の小さいお店だったよ」
「あ、わかったかも。住宅地みたいなとこでぽつぽつスーパーとか中華屋とかなかった?」
「あったかなぁ? 新大久保から新宿に向かって歩ってって、なんとなく右に曲がったんだよね。青いトンネルのところ」
「新宿に向かう道って『職業イケメン』のとこじゃない?」
「あ、そーそー! あった、そんな看板!」
「じゃあやっぱりあそこだ。へー、良いなぁ。行きたいと思ってたんだよねー。なんか買った?」
ん? ってことは、そのお店自体には行ったことは無いってことだよね? それでわかるの? 路地裏の住宅街にあるような小さなお店のことまで?
ほづみ、新大久保の主かなにか? これ、相当行ってんな。
ほづみからは特にKPOPや韓国アイドルまたは俳優好きだという話は聞いたことはなかったが、今や韓国文化は一般化されていて、「韓流」と敢えて分ける必要がなくなるくらいに浸透しつつある。
一方、新大久保はそんな「韓流」を楽しめるある種の観光地化していて、それはそれで、ことさら「韓流」好きなひと以外でも遊びに行って楽しい街となっていた。
色々な意味で、「韓流」も新大久保も、特別または特殊なものから、一般化や日常の延長的なものになっている。
サンバも、そうなれる土壌はある。
きっかけひとつで大流行りし、その後一般的なものとなれる素地はあるのだ。
名称が持つ知名度のアドバンテージ。一般的なイメージと実際のサンバダンスや楽曲のギャップすらも魅力またはコンテンツにしてしまえれば良い。