事件現場
がんちゃんがスタジオルームに入ってきた。ばらされたスルドを前に考え込んでいる私を見て不思議そうな顔をしている。
そんながんちゃんもかわいいが、さて、どうしたものか。
「こんにちはー。お招きありがとう!」
がんちゃんが連れてきたのはほづみとひいの姉妹だ。
ほづみが笑顔で入ってきた。紙袋を渡してくれる。手土産なのだそう。
仲間同士だし学生同士だし友達同士だから正直気は使ってほしくないが、母親に無理やり持たされたそうで、お菓子だから後で一緒に食べようと言ってくれた。
今日は井村さんと少しだけ打ち合わせがある。
阿波ゼルコーバ感謝イベントの構成がおおよそ決まり、サンバパフォーマンスの枠の時間とプログラム位置に関する具体的な双方の要望の擦り合わせと、パフォーマンス以外の部分でどれだけ関われるかの協議を行う。
出演時間に関してはほぼ確定しており、その前提で構成は組まれつつある。
どのタイミングになるかは、演出の細かいところには影響があるかもしれないが、大枠のところではあまり影響はない。
パフォーマンス以外のところに関してもおまけなので、双方やり良いように決めれば良いだけだ。
なので、私のみでも事足りるのだが、ほづみとひいも同席したいと言っていて、せっかくだし、そのためだけに集まるのももったいないからと、まだほとんどスケルトン状態ではあるが、スタジオルームのお披露目も兼ねて、パゴーヂ的な感じで遊ぼうということになったのだ。
これは、先日のプレゼンに於いて感触を得た、最少ユニットによる営業も視野に入れた動きとなる。
手に入れたばかりのスルドの研究に勤しんでいた私に気を使ってか、がんちゃんがほづみとひいを駅に迎えに行く役を買って出てくれたのだった。
尚、この後部活を終えたルイとアリスン、みことも合流する予定だ。その時にも迎えに行ってくれると言っていた。
なんだか不信感を顕わにしているがんちゃんは、ふざけているなら私が車で迎えに行けば良かったのにとでも言いたそうだ。かわいい。あと私は別にふざけてなどいない。
「こんにちはー! えっ、なにこれ⁉︎ いのりスルド壊したの⁉︎」
ほづみの後について入ってきたひい。開口一番、誤解のある言葉を紡ぐ。
壊したわけじゃ、ないよ?
「あはははははっ! スルドの事件現場じゃん‼︎」
事件なんて、起きていないよ?
「ちょっと、ひいっ……!」
「え、え、いのりマジで⁉︎ 殺スルド事件⁉︎ うはは! うける‼︎」
「ひいちゃん! 言葉、つつしも?」
ひいはわかってないなぁ。わからないなら、わからせてあげないといけないかな?
道具を理解するなら構造を理解しないと。構造を理解するならばらし、組み立てないと。
道具の機能に、何故そのような結果をもたらせるのかも考えもせず疑問も持たず、ただ漫然と使うだけだなんて、ねえ?
例えば、そうね。ひいのスマホ、ばらばらにしてやろうかしら?
「いのり? それ、直すんだよね? 手伝おうか?」
私から不穏な雰囲気でも立ち上っていたのだろうか?
「ありがと。まああとでチカに連絡して訊きながら直すよ。パゴーヂだったらスルドよりもパンデイロの方が良いからね。この前買ったパンデイロ、結構鳴らせるようになったんだー」
「う、うん。そうなんだ......」
爽やかな笑顔で言ったつもりだが、ほづみはやや気圧されたような顔をしている。
いけないいけない。ゲストに気を遣わせるなどホスト失格だ。さあ、リカバーするぞ。