バイアーナ、ジナ
『バイアーナ』はダンサーの一種だ。
サンバ発祥の地であるブラジルはバイーア地方の民族衣装が基となったターバンのような頭飾りにドームを逆さにした形の大きなスカートのドレスを纏ったダンサー。羽根は付けていない。
サンバ・ノ・ぺを激しく踏むようなステップではなく、左右に揺れたりくるくる回ったりして、スカートの大きさを活かしたダンスを踊る。
『バイアーナおばさん』の意を持ち、サンバの母とも言われる存在だ。
本場では実績を積んだ『パシスタ』が、一線を退いてから成る栄誉ある立ち位置とされている。
『ソルエス』では年齢に関係なくダンサーの一種として、『バイアーナ』を希望した者が、『バイアーナ』としてのダンスを習得してさえいれば、『バイアーナ』としてイベントに出ることができる。
大きなスカートや揺れたり回ったりするダンスがかわいらしく、肌をあまり出したくない者が希望することもあるポジションだ。
羽根を背負わないのも、羽根によって目立ちたいというモチベーションは満たせないが、負担は少ないという長所があり、地味ながら選ばれる理由になっていることもある。
ジナはにこにこしながら、私の周囲の学生メンバーへも片っ端から乾杯し、もう一方の手で持っているビールをおいしそうにあおっている。
そう、ジナは両手にアルコールを持っている。なかなかにどうかしている姿だ。
まだ会は始まったばかりだが既に酔っぱらっているような様相のジナではあるが、実際にまだ酔っぱらってはいなく、酒の場でなくてもこんな感じなのだから、この後お酒が進んだらどうなってしまうのだろうか。
注げば注ぐほど飲むし、飲むそばから注いでみようかな。
「あーありがとー!」
空になったグラスにビールを注いだら嬉しそうにまたグラスをぶつけてきて、ヤクルトでも飲むように簡単に飲み干していく。
あはは、なんだかシュレッダーみたい。
隣の島に置いてあったワインのデカンタを拝借してきた。
ジナのグラスが空になるや否やルビーの輝きを持つ液体を注ぐ。
「どうぞ」と微笑むと「おー」と応じたジナが衰えない勢いでグラスを空ける。
おもしろい……そういうおもちゃみたい。
更に隣の島より日本酒の徳利を拝借してきた。ジナが両の手に持つ、今は空となったグラスに、デカンタと徳利でそれぞれをなみなみにしてみよう。
「わー、いのりー! いぇー!」
なにが「わー」なのかも、「いぇー」なのかもわからないが、上機嫌のジナに笑顔で「いぇー」とグラスを合わせた。両手のジナに合わせて私も両手持ちだ。片方は先ほど注いだ徳利だけど。
ジナは両方のグラスを交互に飲んでいる。
えー、その飲み方、おいしいのかな? それにしても、どれだけ注いでも平らげるな、これ。ふふふ、おもしろーい。
すぐに無くなるので、また注ごうとしたら、「もうやめてあげてー! ジナが壊れちゃう!」
と、私が次々ドリンクを拝借した島でこちらの様子を見ていたサラが私を止めに来た。
私の手首をつかみ、私の目をしっかりと見てかぶりを振っている。