ひいとがんこの才
能力というものはリソースだ。
内容、内訳を把握し、適切にメンテナンスし、醸成し、運用する。
寡少でも醸成で大きく勁くすることができる。運用の仕方で効率良く使い大きな効果を得ることができる。他のリソースとの組み合わせで相乗効果をもたらすことができる。
豊潤でも、把握していなければ使えない。使い方を間違えればロスになる。不適切な組み合わせで打ち消し合うこともある。
能力を運用するための最初の一手は、正しく理解することだ。
例えばひいなら、恵まれた身体に宿った天性の運動能力。
飽きっぽさとムラっけは玉に瑕。
努力はどちらかといえば苦手なタイプだが、一本気な性格に負けん気の強さも重なって、好きなことや負けたくないことに関しての努力は時に凄まじくさえある。
パフォーマンスでは、好きであること。そして、その数分前まで注意力散漫だったとしても、本番前の一瞬で極めて深く集中できることが効果的に作用し、持ち前のポテンシャルを十二分に発揮している。ひいの集中力は、単に深いというよりも、重く濃密だ。それが、集中状態のひいのパフォーマンスに鬼気迫る迫力を与えているのだろう。
うちのがんこだって、そういう意味では負けていない。
センスは普通だろう。筋は悪くないと思う。
努力を容易くできる素養。これは実は稀有な能力だ。世の中の多くのひとが抱える苦労は、その努力ができないら、続かないからこそなのだから。
そして、即深い集中状態に入れるところ。しかも、ひいのように本番に限定されない。発動条件はなくどこでも集中できる。
深く集中していても、あれやこれや考えられる点は事故の回避や想定外の状況が起こった際の立て直しには有利だが、集中力の純度としてはひいのものよりは劣る。
ただ、気づいたら五時間も練習してたなんてことがあったように、長時間切れない持久力を持っている。
努力を厭わない気質、いつでもどこでも長く集中できる資質、比較的論理的な思考の傾向、真面目な性格を持っているがんこは、きっとなににでもなれる才能がある。
そんな今はまだ芽のような可能性の塊たるのふたつの才能が、から揚げを譲り、かわりにたこ焼きを譲るという微笑ましいやり取りをしていた。
「ひい! 多過ぎるから、から揚げもらってもらうことにしたんでしょ! 炭水化物もらってどーすんの!」
と、ひいはがんちゃんとのやり取りをほづみに見つかって、きつめの注意を受け、運命の恋人に今生の別を告げたような目でから揚げを見ながら去っていった。私の分も置いていってくれている。
私とがんこは顔を見合わせ、「あんな顔されたら食べにくいよね」と言いながらも、踊るわけではない私たちはから揚げを遠慮なく美味しくいただいた。