進む準備
阿波ゼルコーバファン感謝イベントの出場は決まった。
決まったとなると、次は具体的な内容を構想し、構想内容に沿った物資や情報を集め、練習や実践を繰り返し、関係各位との擦り合わせや打ち合わせも進めていかなくてはならない。
この計画をがんちゃんに話したときに、聡い妹から提示された懸念点は、正鵠を射ている。
そう、単純に時間が足りない。
実施日は決まっている。この間に必要なアクションを限定された時間の枠の中にどう組み込んでいくのか。該当するアクションに関係する者の予定も鑑みながらの調整は、難解なパズルのようだ。
ハルに無理をするなとくぎを刺された際、大枠はチームに委ねると伝えた。以降は一演者として全体的な流れの中に組み込まれたい。
とはいえ、企画立案者として、計画の意図と内容が嚙み合っているかや、細部への追及や仕上げの綾など、その辺りの確認や意識の共有はしたい。
スピード感が求められていることは、パフォーマンスの構築や準備に一日の長のある先輩方の方が敏感だ。ハルが音頭を取り早々にプロジェクトチームが組まれた。
内外への情報発信は、広報を担当するダンサーのジルがまとめることになった。
ジルは『ソルエス』のダンサーの中でも実力の高いトップダンサーのひとりで、ダンサー歴もチーム所属歴も長い。
広報はメンバー募集の機能も持っていて、見学者の窓口や新規入会者のサポートも担っている面倒見の良い人物だ。
現在ダンサーのリーダーを務めているのはマルガ。リーダーがそのままダンサーグループを総括する。
マルガは過去にダンサーの中から唯一選ばれる『ハイーニャ・ダ・バテリア』という称号を得ていたこともある。通称『ハイーニャ』と呼ばれるその存在は、『バテリアの女王』と訳される通り、バテリアの女王としてエスコーラにただ一人君臨し、バテリアを鼓舞し、率いる役割を持つ。
『ソルエス』ではコンテストによって選出され、ダンサーとしての技術に加え、女王としての在り方、バテリアからの支持など、複数の要件を満たした優れたダンサーだ。
今回の大枠は提案内容に沿うため決まっている。
持ち時間や決まっている構成の枠の中で、具体的な内容を詰めていくパフォーマンス担当はダンサーのビオラ。
彼女もハイーニャ経験を持つ実力派のダンサーで、個人でもショーなどの依頼を受けている『ソルエス』の中でもトップダンサーのひとりだ。
ダンサーの参加メンバーを取りまとめ、曲目ごとに出るメンバーやユニット、振付や演出の大枠を決める。演出の詳細や自主練の手筈などは個人やユニット単位に委ねる。
バテリアもダンサーと同様、リーダーのメイが総括する。バンドチームも含めての管理となる。
キメや全体的なパターンなどは総括が決める。練習の段取りなども担う。
音楽や音響全般に関しては歌い手の『カントーラ』ゆきえ、弦楽器のキョン、バテリアの指揮者である『ヂレトール』サエコの三名。バテリアの打楽器、バンドの楽器、歌それぞれに論理があるので、調整しながら最適解を組むのだ。
地元サンビスタとの連携や調整はハル、姫田や阿波ゼルコーバとの窓口は私だけど、ハルにも入ってもらう。
私はプランナー及びプロデューサーの立場でプロジェクトチームに加えてもらっているが、お任せした部分についてはそれぞれに長けた専門家が担ってくれている。私は意図や想いを伝えるだけだ。
伝えたいことが、きちんと伝わるためには意思の疎通、相互理解が不可欠だろう。
なるべく会話の場を創れればなと思った。