練習中。がはじまりました。
「はじまるよー」
クリエが緩い掛け声で始めました。何かが始まりました。
話の都合によって大きさが可変しそうな部室っぽい部屋と。
安っぽい椅子が4つ。大きな机が一つ。棚とか小物類は無駄にたくさん。
そして、可愛い女の子が4人。それぞれの椅子に座っていました。
「待て待て。唐突に始まってくれたけど。なに?」
コミカが快活な声でビシっと突っ込みを入れました。
突っ込み役という名の突っ込み役みたいな名前です。
「うむ。何かが始まったらしいな」
ステラです。コミカとは仲良しこよしです。幼馴染という最強属性を持っています。
星っぽい名前なのは、別作品の宣伝だったりはしません。
「この部室かなんかもよくわからない部屋で? 私たちだけで!? 発展性ある!?」
「わたしたちがね、思うまま好きなことしたらいいっぽいよ?」
ユルルです。緩そうな名前と、緩そうな雰囲気をしています。
本当は全然違うかもしれません。
「僕も、そう思う」
「ありゃ。いつから僕っ子になったのかなキミぃ?」
「区別のために」
「なるほど。って納得しちゃったけど」
クリエは気分でよくわからないことをします。よくわかりません。
「あとこれが一番意味不明なんだけどさ」
コミカは頭上に燦然と浮かぶ概念っぽい何かを指差しました。
「この『コメディ練習中。』ってなに? やる気ないの? ふざけてんの?」
「コメディがよくわからないから、練習するんだってさ」
「メタいな!」
練習させて下さい。
「可愛い女の子4人揃えたら可愛いから万事OKじゃないかって」
「だからメタいな! しかもテキトーだな!」
「フォーマットが、素晴らしいと。あやかっていく」
「それでいけたら苦労はないかもですけどー?」
「そーだぞ! 偉大な先輩たちにあやまれ! あーやまーれー!」
「ふむ。偉大な先輩たち、と聞いて」
「浮かべるものは人それぞれだが」
おおむね四文字だったりするんでしょう。ひらがなで。
「実際私たちむっちゃ可愛いんで、何とかならないかな?」
「耐え。ワンチャン、耐え」
「えー。それ自分で言っちゃう?」
実際、めっちゃ超絶可愛い美少女たちです。
戦えます。たぶん。メイビーおそらく。
「でも文章だからあんまりってか、まったく伝わってなくない? そもそも伝える努力を放棄してない!?」
「……どうせ可愛いどこの4コマに勝てない気がする。永遠に」
「うぅ……。どうして見切り発車してしまったのぉ!?」
「コミカの嘆きだけはよく伝わっていると思うよ」
「まあ元気出して。おまんじゅう、半分あげるから」
「うん。食べりゅ……」
「……全部はあげない」
「また腕ごといこうとしてる……」
ユルルの差し出したものにかぶりつくコミカ。いつもの光景に呆れるステラです。
「あとね。ずっと、見られているらしい」
「は? 見られてるってのは、誰に?」
「何かこう、世界っぽい何か」
クリエ迫真の口ぶりに、何やらぞっとする空気が漂ってまいりましたが。
「何かって……何よ……?」
「何かは何かなのですー」
便乗するユルルに、案外怖がりなコミカはびびってしまいます。
「はっ!? 上からの視点に気を付けろってこと?」
「ついでに! 下からの視点にも気を付けるべし!」
「きゃあああっ! って、ガン見しとんのはあんただけじゃっ!」
ステラの攻勢にたまらず我に返ったコミカは、ぺしぺし退けます。
しかし満足そうなステラ。したり顔でささやくのでした。
「くまさん」
「わっきゃあああああああーーーーーっ!」
激しく取り乱したコミカの、ぽこぽこパンチが炸裂しました。
「な、何晒してくれとんのじゃ! 世界的なアレに、は、はじゅかしいしゅぎゃ……!」
「噛んだ」「噛んだね」
「ふぎゅううううぅぅぅ……!」
コミカは顔を真っ赤にして、言葉にならない唸りを発しています。
「まあまあ。悪かったよ。お返しに……私のも見る?」
「ぐずっ。いらんわ!」
「ごくり」
何かを期待していたユルルですが、結局何も起こらずがっかりしていました。
「でもねえ。こんなにメタメタでいいのかなー」
「これ、初回スペシャルらしい。ので」
「普段は見られてることさえ忘れてる……?」
「それはそれで怖いが!」
四者四様。好きなことを、ゆるっとやっていきます。
ちなみにコミカとステラが中学2年生、ユルルとクリエは中学1年生だったりします(本質情報です)。
「とりあえず」
「今のうちに媚び売っとかない?」
「それを言うなそれを!」
「せっかくだし、やっとこうかー」
せーの。
「「はーじまるよー♡ みんな、見てねー♡」」
「ああ。はじまっちゃった……」
この先が思いやられるコミカでした。