【デンジャラス】出現。
数日後。
この日も【Crazy Tower】にログインしたハルバードは1人でイベントに参加していた。
何体かイベントエネミーを倒した後、ハルバードはため息を吐いた。
「…はぁー。駄目だ。」
ハルバードはチュートリアルミニゲームの件をまだ引きずっていた。他の仲間達はすぐに諦めて気持ちを切り替えていたが、ハルバードはすごく気にしていた。
ハルバードは自分に自信があった。
現実世界とゲーム世界、どちらの世界でもハルバードは活発に行動し時々失敗はするがそれ以上に活躍をしていた。
リリース開始日から遊んでいる【Crazy Tower】の世界でもハルバードは活躍し、ランキングに名前が載り多くの人達に認知されていた。
注目を浴びるのが好きなハルバードはその為の努力を現実世界でもゲーム世界でも欠かすことは無かった。失敗しても反省し次に生かそうと行動出来る前向きな性格だった。
そんなハルバードが落ち込んでいた。それほどまでにチュートリアルミニゲームでの出来事がショックだったようだ。
チュートリアルミニゲーム3位の座を得るまでの間にハルバードはとにかく再チャレンジを続けた。仲間に止められてもハルバードは何がなんでも1位の座を取りたかった。
ポイントを得るにつれて強化されていく標的の見た目がホラーゲームに出てきそうな恐ろしいものになってもハルバードは再チャレンジをした。
背後、上空、下から出てくる標的にも対応しなければならず全方位に集中し続けて神経をすり減らしてもハルバードは再チャレンジをした。
ポイントが5桁に達した時、数え切れないほどの標的が一斉に出現し囲まれた時、心が折れかけた。それでも無我夢中で標的を倒して倒して倒してゲームオーバーになった後、3位の座を得た瞬間に自分では1位になれないと気がつき、とうとう折れた。
そんなチュートリアルミニゲームをあああああという【ゴースト】は圧倒的な差をつけて1位になっていた。
1位になれなかったのは悔しい。それは本心だ。が、それ以上にハルバードはあああああという【ゴースト】の存在が気になってしまった。
それから数日間ハルバードはあああああの事を知ろうと現実世界と【Crazy Tower】の世界で調べた。運営が公開している漫画を見たり知り合いにあああああの事を聞いたりと色々とやったが、あああああの事は何も分からなかった。
あああああに会って何かをしたいわけではない。チュートリアルミニゲームで高得点を叩き出したあああああがどんな人物なのか気になっただけ。それだけが理由でハルバードは顔も知らないあああああを探していた。
この日もあああああを探していたが何の手掛かりも見つけられない為憂さ晴らしを兼ねてこうしてイベントに参加しエネミーを倒していた。
あわよくばあああああが参加しているかもしれない。そう思って周囲を見ながら動いていたが結局見つけられなかった。
「どうすっかなー。」
エネミーのいる場所から離れて岩に腰掛けるハルバード。遠くから様々な姿をした【ゴースト】達がエネミーを倒す姿が見えた。ハルバードがそれをぼんやりと眺めている時、声をかけられた。
『ハルバード様。お休みの最中失礼致します。』
声はハルバードが身につけているガンホルダーから聞こえてきた。
その正体は【ゴースト】のサポートをさせる為に運営側が用意したサポートAIだ。主な役割は【ゴースト】の補佐や情報提供だ。【Crazy Tower】では最初に渡されるガンホルダーにサポートAIは宿っている。
「どうした?」
『現在ハルバード様がいるここ630階層にて大型【デンジャラス】が現れました。』
「何?!」
【デンジャラス】とは【Crazy Tower】に出てくる強力な力を持つエネミーだ。様々な個体がおり共通点は何の前触れもなく出現する事のみ。今回の様に事前に知らされる事なく現れ周囲を蹂躙したり何もせず徘徊するなど何をするのか分からない危険な存在だ。
「ここ初心者がいっぱいいるぞ!」
『他の【ゴースト】の皆様の方にも連絡は入ってると思いますが、避難が間に合うかどうかは不明です。』
ハルバードが他の【ゴースト】達がいる方を見ると多くの【ゴースト】達が戸惑っている姿を確認できた。サポートAIの言う通り連絡は入っているようだ。
「【デンジャラス】はどこにいる?!」
ハルバードがそう言うと目の前に立体映像が出現する。表示されているのはこの近辺の地図とその上に表示されている人の形をした青色のマークと黄色の矢印のマーク。そして多くの人のマークが密集しているすぐ近くに急接近する赤い矢印。
地図に表示されているマークは【ゴースト】やエネミーの反応を可視化したものだ。
青色の人型のマークが【ゴースト】。
黄色の矢印のマークがエネミー。
そして赤色の矢印のマークが【デンジャラス】だ。
「よりにもよって!」
ハルバードは立ち上がり急いで【デンジャラス】がいる方へ走った。
『単独では危険ですハルバード様。』
「分かってる! だけど何もしないわけにはいかない。」
ハルバードは【デンジャラス】とは何回か戦った事がある。その時は仲間や他の【ゴースト】達と協力して戦った。
結果は辛勝と全滅のどちらかだった。
万全の状態で経験を積んだ【ゴースト】達でも【デンジャラス】は容易に蹴散らしてまう。それほどまでに危険な存在だ。だから【デンジャラス】が出現した時、真っ先に逃げる【ゴースト】達が多い。
「他の階層にいる奴らにも連絡がいってるよな?」
『はい。』
「それなら勝機はある!」
ハルバードは走った。目指す先は【デンジャラス】。
危険と知っていながら【デンジャラス】と戦おうとする理由はごく単純。皆に【Crazy Tower】を楽しんでほしいから。
【デンジャラス】は1度出現するとそのままその階層に居座る事が多い。
630階層は【Crazy Tower】を始めた時に最初に訪れる場所だ。そのためここには初心者が多い。今の時期は1周年を記念する大型イベントの真っ最中の為それに伴って新規の【ゴースト】達が大勢やって来ている。このまま【デンジャラス】を放置すれば過大な被害が出てしまう。
何も分からないまま【デンジャラス】に蹂躙され、それが嫌になってゲームを辞めてしまう【ゴースト】達がいるかもしれない。
そう考えたハルバードはそれを何としてでも阻止する為に【デンジャラス】討伐に向けて走った。
今は仲間がそばにおらず、相手がどんな力を持っているのかすら分からない。にも関わらず【デンジャラス】と戦おうとするのは無謀だと分かっていながらハルバードは足を止めなかった。
『あっ。』
ハルバードが【デンジャラス】目指して走っている時、サポートAIが声を出した。
「どうした?」
『【デンジャラス】が討伐されました。』
「は?」
ハルバードは思わず足を止めた。
「え。待って。さっき出てきたよな【デンジャラス】。」
『はい。』
「で、もう誰かに倒されたのか?」
『はい。』
「…いやいやいや。そんなわけ」
そう言いながらハルバードは地図を見て【デンジャラス】の位置を確認しようとする。が、赤い矢印はどこにも無い。
「…マジで?」
【デンジャラス】はあっという間に誰かに討伐された。