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文芸部のお話 05

 

 多田佐会長の取り調べが佳境に入ってきた時生徒会室のドアが前触れなく開かれる。


「会長!カツ丼、持ってきました!」


 生徒会室に女性の明るい声が響く。大きな胸を揺らし飛び込んできたのは2年生の生徒会長広報、通称便利屋の鮫島風乃(さめじま かぜの)であった。

 風乃は生徒会庶務(ざつよう)のマグロを見つけカツ丼の入った袋を持ち上げて声をかける。


「あっマグロさん」

「その名前はやめてくれ」


 マグロは知っている人全員からマグロと呼ばれもう諦めの境地に近づいている様子だ。


「なんで?」


 きょとんと首を傾げる仕草がすごいかわいい。

 マグロは相当マグロと呼ばれたくないのか下を向いてしまった。実に勿体無い。全人生の運を使ってももう2度とこの笑顔を見ることはないかもしれないのに勿体無い。


「鮫島さん。もし、鮫島さんのことシャークネードって呼ばれたどう思います?」


 精神的ダメージを負ったがどうにか耐え切ったマグロは反撃の狼煙を上げる。


「シャークネード?私、よく見るわ。もしかしてマグロくんも見るの?なら仲間だね!」


 マグロの反撃の狼煙は急激は雷雨により消火完了。

 一方シャークネード仲間ができて興奮した風乃はマグロの手を握り飛び跳ねる。


「え、え。はい……(どうしよう……)」


 この翌日からマグロは風乃と話を合わせる為にレンタルビデオ店でシャークネードシリーズを全てレンタルした。と噂になっている。


「2人とも何してるの?」


 入り口で騒いでいる2人を多田佐が呼び寄せると鮫島が持っているカツ丼の袋に開かれた目線をつける。


「本当に買ってきたの?」

「なぜ会長が驚く!」


 と演技を忘れ本気で驚いていた多田佐に桜崎がナイスツッコミを入れる。


「あっ!桜崎先輩、レシートです」


 間抜けそうな見た目からは想像できないほどきっちりしている鮫島であった。そのレシートにはなぜか2枚あり『ダブルバニラ』と書かれていたが脅迫されていた桜崎は何も不信感を抱く事なく受け取ってしまった。


「ありがとう。それ、誰食べるの?」

「もち、先輩です。会長にさっき頼まれて。刑事ドラマで文化祭出たいから桜崎先輩をマネキンに使って練習するって、よくわかりませんけど会長の刑事役面白そうなので買ってきましたが、流石にどんぶりのカツ丼は無理でした。あれはどっかのお店に注文した方が良いかもしれませんね」


 などとノリノリで解説しているが桜崎にはどうにも解せない点が何個かあった。


「ちっと待って文化祭?」

「はい。生徒会からも出すって会長意気込んでましたよ」

「会長?どう言う……会長は?」

「今出ていきました。」


 事態の悪化を悟った多田佐会長はこの場からの逃亡を果たしたがすぐに追いかけてきた桜崎に捕まり刑事ドラマが再開された。



「それで、どう言う訳かな?会長」

「も、黙秘権を」


 今度は多田佐が取り調べを受ける側に周り精一杯の小細工を仕掛ける。一方さっきまで脅迫取り調べを受けていた桜崎は先ほどまでの怒りを全てぶちまけるように演技に入る。


「ここでは私が1番上です。黙秘権などありません。それで会長、文化祭で刑事ドラマをやるとは、なんですか?」


 カタっカタっとつま先を地面に叩きつけ圧迫感を出して、窓の方に向かい。ブラインドを降ろす真似なのかカーテンを開け、野球部が死に物狂いで走っている校庭を見下ろす。


「えっと〜ご、誤解があると言うか、その、ですね」


 言葉尻に向かうほど会長な声は弱々しくなる。それに漬け込むように桜崎は追撃をかける。


「すでにブツは上がってるんだ、早く吐いて楽になれよ会長いつまでも隠し通すのは辛いだろ……」


 まだ明るい太陽が差し込み桜崎は目を瞑りながら演技を続ける。


「これ、食べな」


 桜崎は鮫島が買ってきたカツ丼を取り上げて袋から取り出し多田佐の前に置き、プラスチック容器に入ったカツ丼の蓋を開け団扇で仰ぐと鰹節の出汁の美味しそうな香りが漂う。


 その匂いを嗅ぐと2人の喉仏がほぼ同時に動き出す。


「なぜ桜崎さんまで?」

「だって美味しそうだし」


 間口は、はぁ、とわかりやすいため息を大きく吐き、やれやれと首を振る。


「これは調書には書きませんので」

「ありがとうマグロくん」

「だからマグロって呼ばないでください。桜崎さんも桜が菫かはっきりしてくださいよ」

「マグロくん人の名前で遊んじゃダメだよ」


 メッ、と言った雰囲気を出し後ろに座っているマグロの唇に人差し指が触れる。


「さ、桜崎さん……そう言うことはあのその」


 とマグロは1人、顔を紅潮させているが桜崎にとったら男を落とす少女漫画で学んだテクの一つに過ぎない。

 本丸(しのだ)を落とす為ならマグロなど食べるに等しいことである。マグロで篠田を釣ると言うことである。


「あっ、ごめん」


 はっ、とした表情を見せた桜崎はすぐに両手を合わせ先に謝る香水のいい香りが普段のマグロであれば鼻腔を刺激するのだから来ないの状況でそんな悠長な態度は取れない。そもそも女性に対する耐性もあまり高くないマグロが桜崎のうなじを見て目を逸らしているし……?


「うっ、そ、そのそうじゃなくて、あの……だからあ、頭あげて、お願い?」


 真正面からの謝罪を受けたことの少ないマグロは桜崎の謝罪にどうしていいのか分からずただ時間稼ぎに言葉を無理やり紡ぐが全く内容を伴っていない。


「マグロくん恥ずかしかったよね、ごめなさい」


 マグロに罪悪感を持たせる為に更に謝罪しマグロを悪人に仕上げる。こうして桜崎は状況を一瞬にしてマグロ有利から桜崎菫へと持ち込み、涙を見せる。頬を一筋ながらら涙は透明で何色にも染まるそうものであった。

 そうすれば必然的に味方は増える一方である。一度箔がつけばもう2度と落ちることはない。それが……

 桜崎菫が少女漫画から学んだ生き方である。



「あー泣かせた酷い。それでも男かよマグロ!」

「か、会長俺何も冤罪です!」


 そう。冤罪である。痴漢などしてない。うなじを見て目を逸らしただけである。だが残念いくら冤罪訴えたところで判決は決まっている。この場でのマグロが無罪と証言する者はなく桜崎が被害者だと答える者は最低でも2人いる。


 さぁどちらを信じるか………


「痴漢か、生徒会メンバーから犯罪者が出てしまうとは、恐れていた事態が起きてしまった。どう対処するべきだろうか鮫島考えは?」


 顎に手をそっと当て考える素振りを見せるが実際のところ鮫島に丸投げした。


「抹殺がよろしいかと、この学校に間口久郎は存在しなかった事にして新たな戸籍を与え、素晴らしいNEW人生を送ってもらうのがこの場での適切な対応と愚考します。幸いなことに間口本人も異世界転生などと言うジャンルを読み耽っているそうです。なので適合率は高いと想定されます。」


 会長に意見を問われた鮫島はスラスラと適当な嘘を並べてそれらしく発言するのであった。

「て、適合率……」

「意見をありがとう。鮫島。では判決を言い渡す死刑だ」


 一瞬何言ってんだこの人と言った顔をしたマグロの頭は処理を再開してある答えに辿り着きテーブルを割る勢いで叩く。


「は?何故!なんで死刑?重すぎませんか?」

「おっ!認めたな」


 本人が気づく前に多田佐が指摘して嵌められたことに気づいた。


「では退校処分としよう」

「だからなんで!」


 死刑も退校も嫌だと言って聞かないマグロに救いの手が降りてくる。

 それをある人は女神と評し

 ある人は悪魔と推測する。


 だがその正体はただの人間である。


「会長、マグロくんを許してあげてください。彼も悪気はなかったと思うんです。一度の過ちで死刑は重いかと、更生の機会を与えてあげるべきかと思います。お願いします。」


「わかった被害者である桜崎の意見を尊重し死刑は取り消すとしよう。だが次校内で不祥事を起こしたら……この私が地獄まで追いかけてやる。いいな」


「わかりました(なんで俺が問い詰められてたの?)それで桜崎さん会長の尋問は?」


 釈然としない様子のマグロだがこれ以上罪を重ねるのは良くないと判断して批判対象をすり替える。


「わ、私用事があるから……じゃね」


 手を振り蟹歩きで逃げようとする会長の肩が掴まれ会長は体勢を崩し床に倒れる。


「くろ……ゴクリ」


 誰にも聞こえないほどの声量でマグロは呟き、その日1日黒の下着がマグロの脳内を支配していた。そしてその日以降街行く女性のお尻を見て下着の色を妄想すると言う性癖に目覚めてしまった。


 そしてこの事が原因でマグロの運命は変わり未来で収監されることとなった。もし下着を見ていなければ総理大臣になる未来もあったと言うのに。


「なにすんのよ!」


 女の子座りで見上げる視線はマグロにとっては刺激が強すぎる。マグロの座っている所からは会長のパンツが今も少し見えている。ここで変に目を逸らしたらまた冤罪ではなく今度こそ死刑になると理性が発して顔から下を見ないようにしている。


「まだ取り調べの途中です。」


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