文芸部のお話 04
犯人が言いそうな下手なセリフを堂々と吐く神崎に嫌気が差したが乗せてから落とす事にした。
「証拠?」
「そうだよ!証拠だ!証拠はどこにあるんだ!」
サラが聞き返した事を良いことに語気を強めて攻勢に転じるがこの程度サラにとっては問題ではなかった。
別に証拠は本物ではいけないと言う決まりはない。
「さっき言ったでしょクイズの問題。新入生歓迎会での」
「はい?」
クイズの問題?俺何出した?神崎本人クイズの内容など完全忘れているみたいだ。
新入生勧誘会 通称狩りと在校生は呼んでいる。
この学校は近隣の学校には見られない特殊な制度がある。
それが新入生歓迎会。
入学式が終わり新入生が体育館から出て来て、すぐに引率の先生と共に校内の見学に向かう。
その時この部活棟もルートの一つになっている。
部活棟は緑ヶ丘高校の全部活の部室があり
1階から2階がテニスやら野球、サッカーなどの運動会部活
3階は体育祭や各部活動の資材置き場として占拠されており
4階はほぼワンフロアが文芸部の島となっている。唯一残された茶道部部室も部員数減少で文芸部に統合されると噂が流れているがもちろん茶道部部長は否定しているがそして何故か篠田部長も拒否していると噂が流れている……茶道部部員は部長を含め3人、活動時間も週に2回、1時間程度となっている。
そして5階には文芸部に吸収されずに生き残った文化系の部活が細々と活動を続けている。
でだ文芸部は例年、小規模な同好会が多すぎて文芸部の部室だけでは広さが足らないため入学式が終わり保護者を追い出した体育館に急いで必要な物資を運び込み、狩りの大トリとして体育館で文芸部の活動を披露することになっている。
神崎は新入生歓迎会でクイズ同好会として自分がクイズを制作し出場者となり負けたのであった。
なぜ負けるとクイズ同好会の面々が口にしてきたのがマクラナハンの耳に入ったわけである。
「あーぁ、あの件ですか……」
やっと機能の悪い脳みそが本格稼働し思い当たる節が出てきたみたいだ。
「え?イカサマ?」
今年クイズ同好会に入部した新入部員の1人が一言つぶやいたあと驚きのあまり硬直した。
「おい城田?大丈夫か?神崎の話は無視しろ来年になったら消えるし」
と同じく同好会メンバーが倒れた城田の肩を揺らし声をかける。
「おい田口」
「留年するのか?」
神崎の文句に答えたのは田口と呼ばれた男ではなくサラであった。
「人の話はちゃんと聞きましょうね、神崎」
「俺先輩」
「黙れ」
170センチを超える高身長から見下されれば萎縮するものである。これに萎縮しない者がいるのだろうかと疑問にと思う。
「この部活のナンバー2は私よ下は上の者に絶対服従よわかったかしら?」
サラの圧倒的強者のオーラのせいか神崎は自然と完璧な土下座をしている。
「はい、すみません」
人間の土下座を見てもサラ自身なんの感情も湧かない。
不快感が増す一方である。足元からからいかがわしい視線がスカートに向けられているのが感じられた。
それは神崎とっては幸福な時間であったがすぐに潰えた。
「確かクイズ同好会の所属人数とか馬鹿な問題出してたわね。まぁ良いわ、イカサマは私の担当じゃないし、ね」
「死ね?――グブュ――ぐはっ!」
神崎は腹を抱えて飛ばされる
気持ち悪い視線を感じたサラは一瞬、人を蹴ることに躊躇したが父がよく言っていた『人を屈服させる時は暴力と飴だ、』を実行した。神崎の腹はサラの上履きにより撃ち抜かれ、50センチほど飛ばされる、なぜか土煙が上がった。
土煙が収まると神崎が蹲り譫言を呟く。痛い
「神崎先輩との話も終わったし、みんなここの用紙に篠田部長が言ったように、同好会名と同好会長の氏名そして所属する人数を正確に書いてね。もし嘘書いたらこの神崎先輩のようになるから」
神崎先輩の犠牲は忘れない。
それがサラ・マクラナハンのいい所である。
「神崎先輩そのまま床の掃き掃除でもしてください。ここ最近掃除をサボっているとの報告が上がってます。それとここに書き終わった人たちも全員で掃除してください。天井に壁、床、各々の汚れた心全てこの際、綺麗に洗い流してください。早くして私は保健室に部長の様子確認しに行くから、サボったら置物が大量生産されると思って、そうだ。他の教室にも言って行くからそっちの監視もお願いね」
じゃね、と手を振りストレスの溜まったサラは教室を後にする。
サラが向かった先はもちろん保健室ではなく保健室とは反対側の食堂であった。この学校の食堂は使い放題なのである。
まぁお昼を過ぎると日持ちしない食べ物の提供は終わり比較的長期保存できるデザートが提供され、デザートメインの女子生徒にとっては悪魔の時間が始まる。
食堂のデザートの種類は20を超え月に一回、文芸部料理研究会考案の新作がお披露目される。それが今日である。副部長の権限でお披露目前に試食できるのだがもっと食べたい時はちゃんと待って食べるのであった。
その後ちゃんと保健室に向かい篠田部長の容体を確認して校庭に生えていた花を部長の胸の上に丁寧に置いたのであった。
話は少し遡り、篠田部長が屑達のせいで精神的ダメージを負いよろよろと保健室に向かい。サラが携帯で誰かにメールを送ったところまで戻る。
そのメールの送り相手が桜崎先輩である。
『先輩、部長が倒れました』
と簡潔に纏めてくれた。
当然、桜崎特別監察役は仕事を終え、休憩と偽りスイーツ目当てに食堂で香水の混ざり合った匂いと共に行列に並んでいた。生徒会の権力を使えば裏口から入れるのだがあまりやり過ぎるとまた会長に叱られるという理性が機能し、仕方なく並んでいた所にサラからのメールが届いたのである。
スイーツと篠田、どちらを取るか桜崎は苦渋の決断をした。
そして下した決断はスイーツであった。
せっかくここまで並んでスイーツを諦められるはずもなくそのまま列に並び、混ざり合った香水の悪臭の中、桜崎は至福の時間を過ごした。
「美味しいわね、このタルト」
テーブルの皿の上にはショートケーキと真っ二つに割られた
白桃タルトがとろっとゼリーを流していた。
「プリンも新作で出してみてもいいかもね、あとで料理同好会に話通しておこう。……でも生徒会権限で……やめとこう、ここは自主性を重んじないとね。」
なぜタルトからプリンが出てきたのか本人以外が知る故もないが桜崎は美味しそうに頬を緩ませている。
やはりレディにはスイーツをこのスイーツの美しさがわからない男達にはそこら辺の雑草でも食べさせておけば良い。
と桜崎は思考しこの至福の時間を過ごす。
がしかし桜崎の至福の時間を邪魔する者が現れた。
「あれ?桜崎先輩」
完全に緩み切った桜崎に声をかけたのは屑を躾けるという一仕事終え、部長に花束を手向け、ストレス解消のため桜崎と似た思考で食堂に来たサラであった。
「サラちゃん?もう良いの?」
ここで絶対会うはずがないと思っていた桜崎はいつもの猫被りの声が出せず表の声が出でいる。
別に2人の行動時間帯が違うだけで双方共に食堂のスイーツは食べているが、桜崎がうるさくても美味しく食べられる人であり、一方のサラはうるさいのと香水の混ざった悪臭が好きではなく人の少ない時間を見計らいスイーツを食べているため必然的にこの2人がばったり遭遇する事がなかったのである。まぁそんなこと2人は露知らずと言った宝であるが。
「えぇ、適切に始末しましたので」
「始末……」
サラの何がない一言により絶句する。
普段いろんな部活と火花を撒き散らす桜崎といえど不必要に始末という手法は使わない。
「先輩は?部長の看護に行ったのでは?」
「それがね……サラちゃんからのメールが届いていた時にはなねーもう食べてたの……やっぱり勿体無いでしょスイーツが。」
「それわかる!」
すぐにサラが合いの手を入れ桜崎をヨイショし長居するつもりなのか桜崎の正面の椅子を引き。座る。すかさず菫は最後の一個にケーキ入刀し半分になったケーキがコテンっと横に倒れる
「篠田部長の容体は気になる……でも食堂のおばちゃんたちが作ってくれたスイーツを無駄にすることができない。」
「わかる。部長なんてどうでも良い」
桜崎が頷き、ニヤニヤ策にハマってくれて感謝と言った感じである。別にそれが阪神だし騙してもないと思うが本人は騙せたと満足げなのでサラは突っ込むにはなさそうだ。
「そう。まぁねメールで来たしね。そこまで重篤な状態じゃと思ってね、もし危篤状態なら電話かけてくるでしょサラちゃん」
「ええ。電話なり直接行って言うわね。」
「あつ、ごめん。サラちゃん食べて良いわよ」
桜崎と同じような皿にショートケーキが二つ載っている。先ほどからずっと手に持っていて、座った時に置いたのだが食べるタイミングを失って放置されていた。
「あっ、すみません。では頂きます。」
「召し上がれ」
「先輩が作ったわけじゃないですよね」
「気にしない〜気にしない〜」
残った半分のケーキに無惨にもフォークを突き刺し口元に持って行く。
「1人あーん、ですか?」
「いちいちうるさいよ、そう言う後輩ちゃん嫌われるよ〜」
サラのちょっかいをもろともせずケーキを頬張り立ち上がる。
「私、篠田部長の安否確認に行くから」
これ以上追求される前に桜崎先輩はにこやかに表情を隠して皿の乗ったお盆を持って行く。
「素直に心配だから見に行くって言えば良いのに、」
サラの気だるがな呟きが風に消えた。
サラとしてはなんであの小説バカに惹かれるのか理解しかねるが桜崎先輩が篠田部長を好きと言うなら別に無碍にはしないつもりである。別に部長が誰と付き合おうが私の知ったことじゃないと取れるような思考だが本心である。
本心からどうでもいいと思っている。
がそれをあくびにも見せない。
それがサラ・マクラナハンである。
1人残されたサラはケーキを切るフォークに全ストレスを乗せスパッと縁を切るように滑らかにフォークで切り裂き、崩れる前に頬張る。
「美味しい……そう言えば駅前にシュークリームのお店が出来たのよね……行ってみようかしら美味しかったら料理同好会に依頼すれば良いや」
そうして文芸部所属料理研究会はプリンとシュークリームの二種類を新作として制作して来月から食堂で提供されることとなった。
初日にプリンを山のように持って行った生徒会会計とシュークリームをカレーのように飲み込んで食べていた気だるげな金髪ロングが目撃されたが、誰も声をかけれなかった……。
食堂から逃げるように出てきた桜崎菫は部活動に通じる廊下を5月の風に吹かれながら歩いていた。
「ふん〜ふんふんふん、」
良いことでもあったのか普段絶対に見せないほどルンルンな菫はスキップしながら廊下を飛び跳ねる。
『気をつけて、すみれちゃん』
「なんか嫌な予感がする」
生徒会長室と書かれて札がかけられた教室を見た時桜崎の脳内の小さな桜崎が囁く。
小さな菫の直感に従い迷う事なく、生徒会室の前を急いで通り抜けようしたとき直感は現実のものとなる。生徒会室のドアがガラガラと音を立てて開かとそこから出てきたのは桜崎の気配を察知した出てきた生徒会長多田佐美優であった。多田佐は自慢の黒髪ロングをドアの外に靡かせ桜崎の行くてを両手と胸で通せんぼするようにして阻む。
不公平〜。小さな菫が呟く。
「菫ちゃん今いい?」
「えー、ダメです」
嫌な予感が先ほどから脳内で警報を鳴らす。
今会長について行ったら一生出て来れなくなると最大限の警戒を脳がしている。
「ちょっと来て」
逃げるよりも早く暖かい美優の両手で掴まれ、生徒会室に拉致された。
「たすけ――……!!ゅ!ゅ!ふゅー!ふゅ!」
桜崎が叫ぼうとする前に口元をタオルで抑えられ声が出せなくなり生徒会室に引き摺り込まれた。
「はーい。静かにしてね、すみれちゃん」
「……(く、くすぐったい……耳はダメぇ〜!)!!……」
桜崎を誘拐し生徒会庶務の間口久郎通称マグロ(別に9人兄弟の末っ子というわけでない)に引き渡し、椅子に拘束した多田佐は外に目撃者がいないことを確認し生徒会室の電気を消し、すかさずマグロがカーテンを閉め、美優はテーブルの上のデスクライトを点灯させ、4:3のスペクト比の白黒刑事ドラマを思い出される一言を喋り出す。
「マグロくん書記お願い」
「わかりました」
面倒ごとになりそうだとためか息をつき、何かあったら全責任を押し付ける為にマグロはノートに『会長命令』と書いた。そして演技が始まる。
「よーい、アクション!」
「カツ丼、食べるかい?」
「はい?」
突然カツ丼と言われ思考が追いつかない桜崎は自白してしまった。
「カツ丼いっちょ!」
「ちょちょ!!、ちょっと待って!なに?カツ丼?いつの話?」
桜崎がしらばっくれると美優は役にハマり込みデスクを思いっきりバンッ!とぶっ叩く。一瞬デスクライトが消えた。
「黙れッ!!………」
美優は爽快感に包まれる。
「早く白状したほうが身のためだよ」
「何を?」
黙れ。と言って白状しろなんて滅茶苦茶だが自分が取調官だと思い込んでいる美優はそんな矛盾に目を向けることはない。
そして桜崎は身に覚えがないようだ。
なぜ自分が80年代の刑事ドラマに紛れ込んだのかも謎なのに身に覚えのない罪を背負わされ、暴行に近いような脅迫を受け精神はすでにボロボロになっている。
「あんたの罪をだよ……」
「わ、私の罪?」
ここまで言われても桜崎には思い当たる節がないようだ。
だが美優はそんな事お構いなしに取調官役に没頭する。
「不純交際してるってタレコミが入った」
「………はい?」
「認めたわね」
自白をとった美優は取調官役を終えいつもの口調に戻る。
「文芸部篠田部長と密室で2人っきりになろうと画策してた間違いないわね」
取調官役を終えても口調が戻り切ってないようだ。
不自然な口調と合わない学生服もうカオスだ。
「…… …… ……」